第23話 嫉妬

「性病検査…嫌い…」

 部屋でシャワーを浴びても、医師や看護婦が触った感触が残っているようで気持ち悪い。

 ゴム手袋、独特の臭いやキュッ肌に触れる感覚が嫌い。

 ソファでゴロンと横になり、スナック菓子を食べながらアニメ映画を観ている。

「よく解らなかった…巻き戻そ」

 同じシーンを幾度も巻き戻しては、見逃している。


(ツマラナイ…)

 ココには何でもあるけど、欲しいモノがない。

 専属風俗嬢として、ココへ囲われて、どれくらいだろう…曜日や時間の感覚が薄れていくような日々、ここはツマラナイ。


 ホテルの部屋から出て、1階へ向かった。

 相変わらず何でも揃う便利な場所。

(欲しいモノなんて無いけど…)


 素通りして外へ出ようとした。

「外出は控えてくださいナミさん」

 警備員という名の『マフィア』が前に立ちふさがった。

「いいでしょ!!」

「部屋に戻ってください」

「退いてよ!!」

 2人の男に無理やりエレベーターに押し戻され、部屋に戻されてしまった。


「まったく…何が不満なんだ、専属娼婦なんて呼ばれた時に抱かれるだけで、あの待遇なんだぜ」

「だからだろ、勘違いするのさ、何でも自由になるんだってさ…」

「引っ掻きやがった…クソ、血が出てるじゃねぇか!! 手荒に扱えネェしよ!! ムカつくぜ!!」

 エレベーターの壁をガンッと蹴る『マフィア』

「荒れるなよ…数年すれば、出たくないって喚きながら、外に放り出されるんだからよ、考えてみれば憐れなもんだ」

「ハハ…ハハッハ…違ぇねぇ、そんときは俺が叩き出してやるさ」


「どうして外に出れないの!!」

「ワガママ言うなナミ」

「逃げるわけじゃないんだよ、少し街を歩きたいだけ!!」

「街に何がある? ココに何でもあるだろ 欲しいモノが無ければ言いなさい用意させるから、何が欲しかったんだ?」

「何が…何が欲しいか……もういい!!」

 ナミは内線電話を乱暴に切った。

 相手はナミを専属娼婦として招いた『マフィア』だ。


(何が欲しいか…それが解んないから…外に出たいんだよ…)


 高層階から見下ろす景色に飽きた…

 高層階でも見上げれば空があった…


 窓に顔を付けてナミは泣いた。


(あの子…)

 1階で食糧を買っていた桜、大声で喚く女に見覚えがあった。

(専属娼婦…だったな…確か)

 問題でも起こしたか?


 部屋に戻って、冷蔵庫のミネラルウォーターを取り出す。

 飲むわけでもなく、なんとなく眺めていた。


 綺麗な水…でも、この水では魚は生きられない…

 生き物が必要なのは、この水じゃないのだ。


 ココはミネラルウォーターと同じなのかもしれない。

 綺麗なだけで生き物は住めない場所。


(あの子、何をしたんだろう…)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る