第四章

第22話 正義

 クーデターを鎮圧したのは自衛隊だった。

 政府からの要請で鎮圧に派遣され、虐殺の場に変わるまで命令を待ち続けたのである。

 当時の警察も同様である。


 たった一発のハンドガンの銃声でデモはクーデターへ一足飛びに進化した。


 警察はその機能を失い…街には押収品が溢れた。

 自衛隊は…その軍備は他国へ売られた。


 輸送機は民間人の非難に当時は使用されていた。

 いつしか海外へ移民輸送が始まり、そして…徐々に日本へは戻らなくなった。


 現在は『マフィア』が管理している。

 日本へ残った自衛官はどうしているのだろう…

『マフィア』になった者もいるだろう、『ボトムズ』の中にもいるのだろう…


 輸出入に使用される大型の輸送機、滑走路がある基地は『マフィア』が管理している。

 武器の倉庫でもある基地に押し入るバカはいない。


 この国の覇権は『マフィア』が握っている。

 各地にある駐屯地は、『マフィア』の拠点に変わっている。


 そう…こんなところに迷い込むのは野良犬、野良ネコ…鴉…だけ…

『スライム』ですら入って来ないアーカイバーという名の墓場なのかもしれない。

 だが、此処に居るのは『マフィア』の下っ端、それこそ元自衛官や警察官が常駐している。

 彼らは、生活を変えることができなかったのだ。

 誰かの命令で動く、従うことが安心に繋がる、それが政府だろうと『マフィア』だろうと構わないのだ。


 誰かに従うことは楽だ。

 その力が大きければ大きいほど、身を委ねるには楽なのだ。

 大きく柔らかいウォーターベッドに身を沈めるように…ズブズブと身を委ねればいい。

『マフィア』は、その身を委ねるに充分な組織である。

 彼らは、この日本において、ごく真面目な組織人ともいえる。


 任務に忠実で、真面目な日本人。

『倉庫番』と呼ばれる存在だ。

 戦える番人、先頭車両を動かせ、銃火器の扱いに長ける、これほど便利な番犬は、この国以外にいないだろう。

 スペックが高いわりに、飼い主に忠実、そして順応力に乏しく変化を嫌う。

 秘めた攻撃性、擦り込まれた死への賛美、それが日本人という民族だ。


 それに磨きを掛けたのが『自衛隊員』『警察官』というものなのかもしれない。


 異端は産まれる。

 N県の基地

「順調に大きくなっている…」


 鉄の箱にガラスの窓、

 6m四方、正方形の箱の中には、2mほどの『スライム』


「無機物は消化できない…捉えることは可能なわけだ」

「もう犬や猫じゃ満足しないだろう、この大きさじゃ」

「あぁ…今は人を食わせている、文字通り骨も残らねェ」

「有効に使わないとな…」


 ココに居るのは『倉庫番』だけじゃない。

『学者』もいる。


 倫理が蔓延らない日本は、知的好奇心の赴くまま過ごせる国

『無邪気な悪意』が咎めらえれない場所でもある。


ディスオーダー無秩序

 ココに住まう『学者』達を『マフィア』はそう呼称した。


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