第21話 結晶
「先生、これで全て終わりです」
「そう…性病検査は時間がかかるね…」
「専属娼婦なんて、顔だけで稼いでるだけじゃない」
若い看護師が愚痴る。
「性病が蔓延しても困るからね…連れて来られた日から毎月、検査しないと…」
「抗生物質だって手に入りにくいのに…なんで娼婦ごときが優先的に」
「仕方ないさ、仕切っているのが上の連中なんだ、彼女達もマフィアの持ち物、手入れは必要なのさ」
「外では…毎日、人が病気で死んでいるのに…」
看護師の顔には納得がいかないという感情が滲み出ている。
人の命に優先順序があるのは、クーデター前だって同じだ。
同じ症状ならば結局は金を持っている順番に処置される。
それは覆らないルールだ。
命の価値は平等じゃないのだから…
「平等でないのでならば…」
「ねぇ、女の相手もしてくれるの?」
私は、街の路地で客を取っている娼婦に声を掛けた。
「……いいわよ…」
3人に1人くらいは、女の客でもいいと私に微笑み返す。
そして、女だと油断するのか、簡単に自分の後ろを歩かせる。
簡単だ。
「でも…この辺で…そういうことする所、知らなくて…」
「大丈夫よ、案内するわ」
娼婦は自分に主導権があると思うのか、簡単に私に背中を見せる。
「ねぇ…」
私が甘える感じで首に手を回しても、余裕の笑みを浮かべる。
「ふふふ…ホテルまで…待ってよ…」
「死んで…」
メスで喉元をスッと斬り裂く、一瞬遅れるような感じでシュッと血が吹きだし、ゴポッと溢れだす。
最初はソレだけで満足した。
(消してやった…)
路上に倒れた娼婦…嫌悪していた娼婦…のはずだった。
不思議と、その姿は美しく思えた。
しばらく、何も考えずに見ていた…ただ私は美しいとだけ…それだけ…
誰かの足音が聴こえた。
私は、その場を離れた。
胸の高鳴りは、しばらく止まず、私は何をしていても退屈を感じるようになり、すべての記憶を食い尽くすように、あの夜の娼婦が…その光を失った目、引き換えに産まれた美しさ、私の頭は急速に『死』がもたらした『美』に置き換わっていった。
「汚らわしい娼婦も、昇華させることで美しい女性に生まれ変わることができる…そのキッカケは…『死』」
私は今までとは別の視点で医学に向き合った。
看護に興味は無い。
外科の技術を求めた。
そのためには…必要なのだ、このホテルで外科手術を見ることが…
『ボトムズ』
あの連中は年中溢れている。
負傷して帰還する、履いて捨てるほど存在している、無限に湧く蟲のような連中。
医師の手捌きを覚えた。
そして…外科手術に立ち会った夜に娼婦を、同じように切ってみた。
喉元を切り裂いてから、ゆっくりと思い出しながら、娼婦の身体にメスを入れた。
プツッという皮膚の弾けるような小さな抵抗からススッと割れていく肉の切れ目、私は陶酔していく…
私は『欲望』の『結晶』である。
そう自覚するまでに…私は4人の娼婦を切り裂いた。
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