第19話 残像

 それから数日、出動も無く、俺は部屋から出ないまま過ごした。

 何もしていないようでも、部屋にゴミが溜まっていく。

 ゴミ箱はすぐに溢れ、ベッド周りや机の上は散らかっていた。


 TVは、過去の再放送ばかりを垂れ流しているだけ、DVD、CD、などは購入できるが…別に観たいとも聴きたいとも思わない。


 俺達の周りには過去の残像が溢れている。


「昔は良かった…」

 そんな言葉を幾度も聞いた。

 本当にそうだろうか?

 本当に幸せだっただろうか?


 俺は…昔も今も…変わっていない、今も昔も『ボトムズ』のままだ…きっと死ぬまで…


 俺は清掃を頼んで、部屋を出た。

 夜には戻るつもりだ。


 行く場所など無く、結局いつものジャンク屋に向かう。

 銃の弾丸を補充しなければならない…そういう理由で…ホントはどうでもいいのに…


「おう、生きて帰ったみてぇだな」

 チラッと俺を見て、顔を背けてぶっきらぼうに声を掛ける。

「あぁ…弾を頼む」

「もう撃ったのか…早ぇじゃねえか…なんかあったか?」

「いや…別に」

「そうか…まぁ用心に越したことはねぇ…最近は特にな…」

「最近?」

「知らねぇのか? ホレ…」

 ジャンク屋が壁を指さす。

(Jack the Ripper…斬り裂きジャック?)

 この辺りの瓦版というか紙媒体の新聞の切り抜きが張ってある。

「最近、娼婦ばかりを狙う殺人鬼がうろついてるようだぜ」

「殺人鬼…金目当ての強盗だろ…珍しくも無い」

「違うらしい…そいつは金を盗らない…ただ斬り裂くだけだ…失血死する箇所を的確に、それ以上のことはしない」

「なんだソレ?」

「さぁな…だから話題になるんだろ…変わり者だから…」

「変わり者か…あっ…そうか」

「なんだ?」

「俺も見てるかもしれない…何日か前に」

「ジャックをか?」

「いや…ソイツに殺られた死体を」

「ホントかよ…まぁすでに4人だってんだから、目にしても不思議はねぇが…」

(なんでオマエが?)

 ジャンク屋は、そんな目で俺を見た。

「スラムばかりに現れるそうだが…オマエさんが?」

「気まぐれさ…偶然だ…」

「だろうがな…医師、軍人崩れ…いずれにしても、刃物の扱いに長け、人体を知っている…そんなヤツらしいからな、コイツは…」

「…『スライム』より性質が悪いかもしれないな…」

「皮肉だな…どんな生き物より、人が一番、性質が悪い…」

「変わらないさ、昔も…今も…人が一番…性質が悪いのは」

「フフフ…違ぇねぇ…ほらよ」

 俺に弾倉を投げてよこして、俺が差し出した金を確認もせずに、奥へ下がって行った。

 背中を向けたまま軽く手を上げて…


 俺も、そのままジャンク屋を出た。

(またな…)


 空は曇って、今にも雨が降り出しそうな夕刻だった。

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