第三章
第17話 暗躍
「どこか気になるところは?」
医者は、白衣を着ていた。
診察に必要な設備は、このフロアに揃っているようだ。
1フロアが、そのまま病院だと考えていいのだろう。
「とくに…ない」
「そう…じゃあ血液検査だけでいいね」
40代後半だろうか、頭髪には白髪が混じり、少し腹が出ている男。
そうだ…薬物反応がでるか否か…それが問題なのだ。
別に俺が風邪でも癌でも、誰も気にしやしない。
若い看護師に採血されたが…下手くそだった、骨が痛いくらいに…。
そのまま部屋に戻った俺は、ズキズキ痛む肘の内側を押さえて窓の外を眺めていた。
(人がゴミのようだ…か…)
下を見れば、豆粒のような人がゴミゴミと蠢いている。
「こうして見れば…まるで『スライム』だ、色が混じり合ってグチャグチャ蠢いて」
案外、『スライム』なんて、こんなものなのかもしれない。
大きな視野で、高い視点から見れば、同じなのかもしれない。
俺だって…
俺は、目的もなく街へ出た。
手を伸ばしても届かない…手を伸ばすから届かない…
そんな街
現実でありながら嘘くさい街
(俺が知ってる街って…こんなじゃなかった…)
それでも昔と変わらない。
俺は馴染めないまま、人を避けるように歩くんだ。
自分の影を追う様に歩き、他人の影を踏まない様に歩き、自分の影を他人にぶつけるように歩く…誰とも目を合わさない様に…。
何処にも行けない、何処だか解らない街、何処に行っても…何処にも行けないまま俺は歩いている。
止まったままの「あの時」から、今も歩いているようで何処にもたどり着けないのは…俺が目指すべき場所を見つけられないから…世界が変わっても、俺は変わっていないのだから、何処にも行けるはずはない。
歩いて…歩いて…知らず知らずに他人を避けているうちに、俺は路地裏を歩き、足が痛み出す頃…日本は夜になっていた。
避けるように歩いた眩しいだけの陽の光は、痛いほどに目に刺さる人工的なネオンに変わり、『スライム』を誘わない様に布で包まれボンヤリと柔らかく光っている。
それに誘われる俺は『スライム』と何が違うのだろう?
目の前に人だかり、避けるように他人の輪を外輪に添って歩いて通り過ぎようとした…横目に輪の中心を他人の隙間から覗き見ると、白い腕が見えた。
(死体…女…か)
珍しくも無いだろうに…どうせ娼婦が売上金目当てで殺された、そんなところだろう。
痛み出した足を休める、いい理由ができた。
俺は、錆びた階段に腰掛け、しばらく眺めていた。
死体の知り合いらしい中年の女性が、しきりに女の死体に話しかけている。
誰かが、中年女性を死体から離れるように連れて行った…
嘆いていたのではない。
死体から金を抜き取っただけだ。
明日には、この死体も身ぐるみ剥がされて下水に捨てられるだろう…
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