第12話 雨季
雨が降り続いている。
今日で3日目か…
シトシトと振り続く雨、『ボトムズ』にとっては休息日だが『スライム』の活動が活発になる。
陽の光が弱くなり、雨で濡れたコンクリートやアスファルトは移動しやすいようだ。
個体差もあるが、小さな『スライム』は、かなりの高さまで這い上ってくる。
高層階といっても安全ではないのだ。
大まかに、今の東京は高層階に居を構える『マフィア』のトップ、その下に『専属娼婦』、その下に『ボトムズ』と住み分けられている。
『マフィア』が取り仕切っている『専属娼婦』の寿命も長くは無い、年老いれば追い出される、飽きられても同じこと…ある意味では『ボトムズ』と変わらない、交換の効く歯車に過ぎない。
入れ替わりが激しいのも同じだ。
消耗品なのだ。
街で客を取る『娼婦』と違って飼われているうちは安全で快適な生活を送れる。
容姿に恵まれた女性の特権なのだろう。
稀に男の『男娼』もいる。
いずれにしても需要がある限り、高層階に住んでいられる。
俺達は『ボトムズ』と呼ばれながら住処は地上に比べれば遥かに安全で快適な高層階、皮肉を込められても仕方がないのかもしれない。
だから、俺達が地上に戻ったときは…相応の仕打ちが待っている。
此処を生きて出て行くときが来れば、それは本当の『ボトムズ』となることを意味している。
『専属娼婦』も同じ…生きて出て行く分、俺達より悲惨なのかもしれない。
性病を始め、様々な病で追い出される者、妊娠して追い出される者、出て行くときに五体満足、健康なまま出て行けない場合も少なくは無い。
その後の生活は想像に容易い。
誰かに拾われない限り、ほとんどは野垂れ死にする。
娼婦崩れ、ボトムズ崩れの行先なんて、ロクなものじゃない。
結局は『死』に向かって、他人より早く歩を進めているだけなのかもしれない。
1階のロビーは24時間、商人が行き来し賑わっている。
通行証を発行されている商人ならば下層ではあるが、部屋も用意されている。
殺伐とした今の日本で、昔のスーパーやコンビニのように、少し安心できる雰囲気がある。
俺も、たまに買い出しに出かける。
別に、どうしても必要な物があるわけではない。
ただ、少しだけ現実を忘れたいだけだ。
たかが買い物だけど…少なくても生きていくために前向きな行動だと思える。
俺の生活で数少ない前向きな行動。
派手な服でウロウロしているのは、このホテルで囲われている『専属娼婦』だ。
香水、化粧品、下着、彼女達が買うのは、そんな物が中心だ。
それでも街では出回らないレベルの物だが…
「あっ…すいませ~ん」
20代前半くらいの背の高い女性、白いワンピースに履きなれたようなヒールをカコカコ鳴らして、俺にぶつかってきた。
「いや…あっ…」
長い黒髪が顔を掠めた…ほのかに香る香水…
一瞬、何かが俺の脳裏に過った。
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