第二章

第11話 救済

 目が覚めて、水圧の弱いシャワーを浴びた。

 任務の報酬は、生きて帰った『ボトムズ』で分けられる。

 つまり生き残りが少なければ報酬は多くなるというわけだ。

 そうでもしないと、装備を持ち去り売り払ったり、命惜しさに逃げる奴が増えてしまう。

 しかし、このせいで、『ボトムズ』同士の殺し合いも起こるという側面もあるのだが、まぁ装備が無くなるよりは、マシだと『マフィア』は考えている。

 要は、金の為に行われる共食いは黙認されている。

『スライム』から銃弾が回収されることがある、それは、『ボトムズ』が後ろから撃たれ食われたためだ。

 銃弾は吸収されないのだから。


 このホテルの下層階は、商人の出入りが激しい。

 街で卸すより『ボトムズ』に直接売った方がいいのだ。

 金でトラブルになることがない。

 要は売れ残りが街に溢れることになるわけだ。

 刹那的な職業だから、蓄えなど考えない連中が多い『ボトムズ』次の出動までに報酬は使い切る、そんな生活を続けている。

 街に出れば、娼婦が寄ってくる。

 金の使い方なんてそんなものだ…


 ホテルから出るのも億劫おっくうだ。

 久しぶりに窓を開ける、それなりの高層階から荒んだ東京が見える。

 ここから見ていても、以前の東京とは大分変わったことが解る。

 ほんの数年なのに…

 昔なら、どんな風景だったのだろう…

 正直、クーデターが起こらなかったとしたら?

 俺は、こんな高層階から東京を眺めることなど一生無かったはずだ。

 大学を諦めて、ただ東京で暮らしていただけ、週単位でアルバイトをして、少し金が溜まったら、1週間くらい何もしないで過ごす、金が無くなれば、またバイトする。

 若いから選べる、後10年したら? 20年経っても、こんなことしてるのだろうか?

 不安しかなかった。

 だけど、何もしなかった。

 TVの中では、同じ世代の奴らが、「政治が…」「この国は…」今を否定し続け、過去を責めていた。

 関係無いと思ってたし、そんなことで、この国は…まして世界は変わらないと思っていた。

 次第に、その数が増え…国会義堂を占拠する事態になり、俺は内心ドキドキしたんだ。

(ナニカが変わるのか?)


 変わった…。


 変革は必ずしも良い方向へ向かうわけではない。

 歴史が証明していたのに、武力で奪った政権はすぐに崩壊する。

『明治維新』以来、この国とは無縁だったクーデターは、あまりに幼稚だった。


 履き違えた民主主義

 擦り込まれた平等


 在りえないんだ。

 誰もが平等で幸せになれる世界なんて…


 それを叫んで奪ったはずなのに…結局、この国は、より明確な弱肉強食を産んでしまった。


 俺は…これで良かった。


 救われた側の人間なのかもしれない。

 どん底で這いつくばっていた俺には…

 俺は、あの日…救われた。

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