第10話 流転

 トラックに戻ったのは『ボトムズ』8人、つまり2人は消えた。

 死んだのか…逃げたのか…火炎放射器を回収できれば、本体など誰も気にしない。

 火炎放射器の方が価値が高いということだ。

 代わりは、すぐに見つかる。

 高木だって、誰かの代わりに入ってきたのだから、同じこと。

 俺もそうだ。


 今夜の『盾』は、完全に使い捨てだったわけだ。

 生還確率0%

 100%なんて在りえないのが『ボトムズ』と『盾』

 だが0%っていうのも珍しい。

『盾』というより『囮』だ。

 どんな気分だろう…

 逃げれば撃たれる、その身に『スライム』が這い寄ってくる気分は…考えたくも無い。

『盾』の報酬は罪人の場合は減刑、そうでない場合は、すでに金は支払われている。

 つまり『人買い』によって連れて来られた連中、捨てられた老人や障害者が。ほとんどだ。

 子供なら、奴隷として、あるいは娼婦として売られる。

 そのほうが金になるからだ。

 二束三文のはした金で売られてきた者、『盾』とはそういう連中だ。

 誰も名前で呼ばない、『盾』はモノと同じ、数で管理される連中。

 そんな奴らにさえ、『ボトムズ』は蔑んだ目で見られる。

 自分達に銃を向け、死地に留まらせる、雇われの死神。


 工業区を離れるトラックの窓から海を眺めていた。

 公害なんて言葉は無くなった。

 汚水を垂れ流し、環境破壊、ECO、そんなものから無縁の国になった日本の海は、青とは呼べぬ濃緑、泡立つ波は、どこまでも心を沈めていくような感じがした。

 それでも沖合は青く静かなHorizonを見れば、少しは気が休まる…


 今は眠ろう。

 ホテルの部屋に戻って、得た金と食糧を机に放る。

 何のために生きている?

 金は必要だ、それを得るために生きているのだとしたら、俺は…

 死ねば金も要らない、死にたくないから生きているのだろうか?

 違うな…死に方を選ぶことが出来ないから生きているだけだ。


 死んでもいいんだ。

 自分が納得できる死に方を選べるのならば…


 ベッドに身体を預けて、目を閉じる。

 眠りに落ちる、その刹那。

「誰だ?」

 俺の脳裏に過った女性…

 長い髪、大きな瞳、

 一瞬だけ過った記憶…なのか…


 思い出の中に残る残像だったのか

 海を見たからか、昔の記憶が呼び起こされたのだろうか


 何か胸に引っかかるような、切ない気持ちになった。

 なぜか…なぜか…

 夢を視ていたような気もする。

 もちろん、思い出せないし、そんな気も無い。

 ただの夢

 希望も、未来も、この国には、もう無くなった。

 関係ない、今しか生きれない俺にとって…

 誰かのせいじゃない。

 ふいに、あの時の…クーデターの日にTVに映った、あの男の顔がボンヤリと浮かんだ。

 違うさ…俺には、あの時から夢なんて無かった。


 3時間ほどして目覚めた俺は、どうやら泣いていたようだった。

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