第9話 瓦解

 朝日が差しこみだすと『スライム』の動きが鈍くなる。

 日陰に逃げ込むようにズルズルと散開していく。

「終わったな…」

 誰かが呟き、ゴトンと火炎放射器を背中から外し地面に降ろした。

(何人残ったんだ…)

 辺りを見回し、視認できる『ボトムズ』を数える。

(1・2…5・6…8人か…2人死んだか…それとも逃げたか…)

「負傷者だ…トラックが来たら先に積んどけ」

『ボトムズ』が1人引きずられてきた。

『スライム』に食われたのだろう、左腕を押さえている。

 焼き払われたのだ。

『スライム』に獲りつかれたら、それしか駆除する方法は無い。

 小さければ『スライム』だけを焼き払うこともできるが、ある程度の大きさになれば遠距離から焼き払うしかないのだ。

 うかつに近寄れば、破裂した『スライム』に自分も食われる羽目になる。


 しばらく日陰の『スライム』を眺めていた。

 こいつ等は、日光の下では動かない。

 物陰に隠れて夜を待つ。

 あるいは暗がりで活動し続ける。

 日陰のスライムは動かないが、非常に危険だ。

 ちょっとした刺激で破裂する。

 陽の刺激、振動、やたら過敏に反応する。

 夜とは比べ物にならない、うっかり陽の元に晒そうものなら、破裂を繰り返し被害を拡散させることになる。

 まだ夜の方がマシだというだけだが…

 雑食性で何でも喰らう、細胞のひとつ、ひとつが消化液を分泌、溶解して吸収するのだそうだ、その消化液は非常に強力で、ほとんどの有機物をエネルギーとして捕食する。

 逆に言えば、無機物を吸収することはしないために、その身体に貯め込み続ける。

 結果、貴金属、鉱物などを運び続けることになる。

 それを回収するのが『ボトムズ』の役割でもある。

 駆除だけではない。

 慈善事業じゃないのだ、あくまで利潤が付いて回るから『マフィア』が仕切る職業に成り得たのだ。


 自国での生産性を著しく衰退させた日本が輸出できるものは、農作物以外では、貴金属、美術品、そして鉱物資源が中心になる。

 元々、鉱物資源に乏しい国土ではあるが、輸入したままのレアアースに代表される希少鉱物は工業区に残っている。

 そこの覇権を牛耳る事こそ『マフィア』の役割といえよう。

 表立った縄張り争いはないが、静かなイザコザは日常的に起きている。

『ボトムズ』は、どこかの『マフィア』の飼い犬であり、闘犬でもある。

 つまり…使い捨てられる『兵士』にすぎないのだ。


(そういえば…高木の姿が見えない…)

「逃げたか…」

 それも仕方ないことだ。

 選択肢のひとつだと理解できる。

 逃げる場所があれば…だが。


 俺には、そんな場所はない。

 だから逃げないだろう…逃げれるヤツが羨ましいとも思う。

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