第8話 掃討

 その晩に集められた『ボトムズ』は10名を超えた。

 見た顔、見ない顔、まぁどうでもいいことだ。


 俺は、ココで榊の死を知ったわけだが…まぁ、それ以上思うことも無い。

『ボトムズ』が何処で死のうと、気にするヤツなどいやしない。

 取り分が増えると喜ぶヤツの方が多いかもしれない。


 濃緑のホロを張ったトラックの荷台には『盾』が4名座っている。

(4人か…少ないな…)

「大丈夫ですかね…」

 振り返ると高木が立っていた。

「高木…だったな」

「はい…」

 浮かない顔の高木、細い身体には似つかわしくない火炎放射器を担いでいる。

「初めてなんです…コレ使うの」

 背中の火炎放射器に視線を動かす。

「そうか…俺だって2回目だ、そう変わらないさ」

「経験なしとアリでは大違いですよ」

 ため息を吐く高木、あまり乗り気ではないらしい。


 俺達が輸送された先は工業区だった。

 潮の香り、肌にべたつく風、波の音、そのすべてが懐かしく思えた。

 子供の頃、感じていた当たり前だった海街の空気だ。

 違うのは…おびき寄せるまでも無いほどに蠢く『スライム』の群れ。

「こんなにいるのかよ…」

 大きさ、色、様々な『スライム』が蠢く工業地帯、その排水が海へ垂れ流され、その中で蠢く『スライム』その数は異常だ。

「ココでは回収の必要はない、陽が昇るまで駆除し続けろ、諸君らの回収は明朝である」

 トラックから拡声器で割れた声が工業区に響き、トラックは引き揚げて行った。

「クソッ!! 使い捨てる気だぜ!!」

「ゴチャゴチャ言ってねェで構えろ!!」

『ボトムズ』達に動揺が走る。

「盾を光らせて先頭に立たせろ!!」

 混乱の中、慣れた『ボトムズ』が指揮を取り出した。

『盾』にサイリウムを持たせて、全面に押しやる『ボトムズ』

「いいか…一気に仕留めないとキリがねぇぞ」


 その通りだ。

 悪戯に『スライム』を刺激しても破裂して増えるだけ…

 1か所に集めて集中的に焼き払ったほうが効率的だ。

 円形に飛び散る『スライム』を囲むように配置すれば、そのために頭数を揃えたのだろう…しかし、それは『盾』を完全に囮として使うことになる。

「4回が限度ってことだな…」

 タバコを吹かしていた『ボトムズ』が呟いた。

 そういうことだ。

 1回に1人…『盾』を見殺して4回、それで朝まで…

「2時間…」

 俺の呟きが聴こえたのか隣の『ボトムズ』がニヤッと笑った。

「4回の破裂…2時間づつ生き残ればいいだけだ」


『盾』が2時間毎に減っていき…俺は4回目を数え、朝日を浴びた。

 ゴォゥ…という炎の音、『スライム』が燃え朽ちる臭い…その全てが俺の身体に、心に刻まれていく。


 この臭いもいつか…俺の記憶となって、俺は…それを懐かしいなどと感じるのだろうか?

 ロクな思い出も無い子供の頃を思い出した時と同じように…

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