第7話 模造
腕のいいジャンク屋ってのは貴重だ。
街に出回る銃火器やら刀剣やらは大半は模造品だから、それを造る職人の腕に多分に左右されるからだ。
その点では、『ボトムズ』に供給される銃火器は海外からの輸入品で信頼がおける。
『マフィア』が『ボトムズ』に渡した武器、それが使い物にならなければ彼らが困るのだ。
素性の知れないモノは扱わない。
また、そんなモノを掴まされれば面子に関わる。
下手な商売はしない。
街に出回る銃火器は、『マフィア』の払い下げか、『ボトムズ』の遺品を回収して模造した贋作がほとんどだ。
トリガーを弾いて死んだ奴は数知れない。
そんな中で優秀なジャンク屋は貴重な存在なのだ。
桜が出入りするジャンク屋は、そういう意味で、いい知り合いと言える。
彼から買った銃はハンドメイドで、桜は幾度かトリガーを弾いてはいるが、彼の指は左右10本揃っているのだから、ジャンク屋の腕は信頼していい。
「久しぶりだったな…一人前の『ボトムズ』って顔になったな」
「底辺に染まったってことか?」
「そんな顔だ…飼い犬の顔」
「否定はできない…」
「いいじゃねぇか…飼い犬だって」
深いシワが刻まれた顔は実際の年齢より老けて見える。
タバコを深く吸い込み、他人の迷惑を考えずに吐き出す。
そう…今は他人の迷惑など考える時代じゃない。
なんとかハラスメントなんて言葉が幅を利かせていた時代など遠い昔のことのようだ。
ほんの数年の出来事なのだが…随分、昔のことのように感じる。
それほどに世界は…いや日本は変わった。
俺は銃の弾丸を受け取って、金を支払い店を出た。
「おう…また来いよ…必ずな」
ドアが閉まる直前、主が僕に声を掛ける。
「あぁ…生きてたらな…」
(来るから…死ぬなよ…)
互いに、そんな意味を込めて、ぶっきらぼうな言葉に変える。
変わってしまったのは時代だ。
結局、人間の本質は変わっていない。
顔見知りくらいの仲でも、その無事を願う…それもまた人間なんだ。
この日、俺は…1人称を『僕』から『俺』に変えた。
榊の死を知ったのは、2日後のことだった…
俺の5度目の出撃が決まって集合場所へ行ったときに知った。
スマホに連絡が入るだけの出撃命令は、日時と場所だけの無慈悲な内容。
ソレを見ると、自分が頭数でしかないと改めて自覚する。
生きていくために死地へ歩いて行く…
それが『ボトムズ』なんだ。
メンバーが変わるなど日常茶飯事、今更、驚くようなことでもない。
行きと帰りじゃ人数が違うなんて当たり前なんだ。
榊だって、考えようによっては『スライム』に抱きつかれて死ぬより、いい死に方をしたのかも知れないじゃないか…
俺の隣で火炎放射器を積んでいる奴だって、数時間後には死んでいるかもしれない。
俺だって…。
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