第6話 転機

「こっち来いよ」

 榊は上機嫌で、宛がわれた女をベッドに引き寄せた。

 手にした報酬を30分後に女に変えたのだ。


 この『日本』で最もポピュラーな職業

『農家』

『ジャンク屋』

 そして…

『娼婦』

 この国の人口増加は彼女達によって維持されているといっても過言ではないというほど、その数は多い。

 売れる物は何でも売る…容姿に恵まれた女性は、両親に感謝しながら、その身体を売ればいいのだ。

 良い稼ぎになる。

 恵まれなかった女性は、その子供を売ればいい…男子なら労働力、女子で容姿が整っていれば歓楽街へ、残念な場合でも黒い市場では少額でも引き取ってもらえるはずだ。


 親元で育てられるなど、それなりの稼ぎが無ければ出来ないことだ。

 街の暗がりには、群れた子供が大人を狙っている。

 狩られるだけが子供ではない。

 子供でも大人を狩りの対象とする、ハイエナが群れでライオンを襲うように…


 そういう意味で、榊は、そんな子供にとって今宵はいい獲物であったと言えよう。

 まだ幼さの残る少女10代前半か…華奢な身体に強めのメイクが壊れたような魅力を醸し出す…酔って歩いていた榊は、その魅力に自ら近づいた。


 榊は『スライム』を狩るには長けていた。

 なにせ、まだ『ボトムズ』と呼ばれる前から、この仕事に従事していた言わばプロパーだ。

 自衛隊上がりで銃火器の知識、経験に長け、何より狩るという行為に強い関心を示していた。

 戦争を放棄した国であっても、戦場に馴染めないわけではない。

 兵士としての資質を持ち産まれたことは、国とは関係ない。

 あくまで個人の問題だ。


 だが、優秀かどうかは別の問題でもある。

 ライオンはハイエナに勝てるかどうか…それは状況によるのだ。


 幼い少女は、自分の細い身体を乱暴に引き寄せた榊の胸を小刀で突き刺した。

 躊躇なく…幾度も…幾度も…

 口からドロッとした悪臭を放つ血反吐を吐いても、まだ突き刺した。


 部屋にある金を根こそぎ持ち去り、仲間のもとへ戻る。

 数人の子供達がホテルの榊の部屋から全てを持ち出し、市場で売り飛ばした。


 この国では、誰もが『狩人』であると同時に『獲物』でもある。


 榊は『スライム』を狩り『少女』に狩られただけだ。


 よくある話だ…

 今宵も幾つ、そんなことが起こったのであろうか…

 榊は、その一つに過ぎない。


 そう…高層ビルの屋上で高級スーツを纏った男が、眺めた数多に光る星の数のように…誰も正確に把握できない光の数のように、その星のひとつが流れて消える夜の話。

 それだけの話。


 少女が、その流れ星に何を祈ったか?

 誰も興味は無い。


 その程度の話。

 数か月は、少女の腹は満たされるのであろう…

 誰かに狩られなければ、きっと…。


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