第5話 相違

「ボス、榊のチームが戻りました」

 旧、六本木の高層ビルの最上階、やたらと広い部屋に細身の男が独りで外を眺めていた。

「金になりそうなモノはあったか?」

 振り返りもしないまま、ボスと呼ばれた男は聞き返した。

「貴金属は、それなりに…」

「そんなもんか…」

「出向いた先が商業区だったので…貴金属しか…」

「いや…構わない…ところで、榊は1年以上になるか?」

「そうですね…」

「そろそろ工業区へ送ったらどうかね…彼は運がいいようだ…」

「手配しておきます」


 ボスと呼ばれた男は左手で部屋から出て行けと促した。

「失礼いたしました」

 パタンッとドアが閉まる音がした。

 ガラスに映った30代半ばの『ボス』と呼ばれた男がベタッと床に座り込む。

「つまらない国になってしまったな…」


(あの頃は…面白かったな…)


 男が思い出しているのは、この『日本』が腐り落ちる直前の頃…

 片田舎で金貸しをやっていた頃…

 バカが毎日、金を借りに来る、返すアテなど無いくせに…

 結局、その身を何処かに引き渡して清算するだけ、俺達は、せいぜい逃げないように見張っていればいい…

 こいつ等に返済能力などありゃしない。

 人生を誰かに売り渡すしか返済の方法などありはしないのだ。


 ツマラナイ…


 いつだったか…金を借りに来た、あのガキが来るまではつまらなかったな…

 妙に前向きで…活動資金にするとか言ってたな。

「この国を変えるんだ…」

 クククッ…

『ゆとり』って世代は競争を知らない。

 横並びの思考しかできない。

 縦の人間関係を認めず、整列していればいい、そんな連中の1人。

 それだけ…

 沢山いる中の1個に過ぎない。


「僕達、皆で日本を変える」

 幼稚な考え方…

 話しをしているだけで不愉快だったよ。


 皆…皆…皆…

 耳障りな言葉

「なぁ…皆って誰の事だったんだ?」


「この国は変わったよ……あ~…っと…名前なんだっけな…覚えてねぇや」


 所詮は大勢の中の一つだったんだよ…


 立ち上がって窓に向き直って呟く。

「教えてやるよ、ゆとり世代のバカガキ…何かを変えるのは、皆じゃねぇんだ、ただ独りの規格外品だけなんだよ」


 特別な誰か…名も無いオマエじゃないんだ。


 皆で変えるんだ?

 そんなこと言う段階で、何も変えれないと思い知ったか?


 変えたのは…オマエに銃を渡した俺だ。


 オマエが弾いた引き金で、この国は変わった。

 良くも悪くも…変わったよ。

 皆のおかげじゃない。

 オマエのおかげでな…


 面白かったな~

 オマエの稚拙な国家論、組織論

「ホント…バカみたい」


 誰かの為に…気持ちで…

 そんなもんで、世の中は変わりはしない。

 誰も、そんなもん求めちゃいない。


 皆…自分のために生きているんだからさ…

『個』の『塊』が『皆』なんだ。


「ホント…オマエの言う皆の意味が俺には解らなかったよ」

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