第一章

第2話 底辺

『ボトムズ』と呼ばれる職業が産まれたのは2年ほど前になる。

『スライム』はゲル状の身体を持ち、壁の隙間からでも侵入してくる厄介な生物だ。

 他の生物に獲りつき、溶解させながら捕食し成長していく。

 雑食で食い物を選ばない。

 分裂を繰り返すので、焼き払うのが最も効果的なのだが…『スライム』は刺激を与えると地雷のように破裂して四散し再び活動を始める。

 かなり細かくなった『スライム』を焼き払うしか処理の方法を持ち得ないのが現状だ。

 ソレを専門に行う職業が『ボトムズ』である。

 ほぼ例外なく『マフィア』に雇われており、その『マフィア』によって『日本』は支えられ…支配されているのだ。


 この国の政治はクーデターで失われ、新たな秩序を得た。

『弱肉強食』


 この絶対不変のピラミッド、その底辺に僕はいる。


「おい…オマエ、何回目だ?」

「えっ…あぁ4回目になります」

「そうか、今日の『盾』は何人いるんだ?」

「3人って聞いてますけど」

「たった3人? そりゃ…死人がでるな…」

 ボロいホロを被せたトラックの荷台には、鎖で繋がれた男が3人座っている。

 手には錆びた2mほどの鉄板を持たされ、揺られているのだ。


「着いたぞ…降りろ」

 朽ちた民家が並ぶ郊外、人が住んでいる気配はない。

「早くライトを消せ!! 寄ってくるぞバカ!!」

 先ほど僕に話しかけた男が別のボトムズを怒鳴る。

「ったく…新人はよぅー、こっちまで巻き添え喰らったらたまらんぜ…なぁ」

 僕に同意を求める顔には苛立ちが浮かんでいる。


 大型の火炎放射器を担ぐガタイのいい男、慣れた所作がベテラン感を醸し出している。

「オマエは回収を頼むぜ」

 僕の背中をバンッと叩いて荷台の方へ回った。

「まだ降ろしてねぇのかよ、テメエはよ」

 後ろから苛立つ男の声が聴こえる。

「すいません…じゃあ降りてください」

「バカ!! 『盾』に敬語はいらねぇんだよ!! 降りろ犯罪者が!!」

 荷台を乱暴にガンッと蹴り上げる。

「さっさと『棒』持って歩けバカ共!!」

『盾』と呼ばれた男達が重い鉄板を担いで、ノロノロと歩き出す。

 足には鉄球がハメられ、歩き難そうだ。


 先ほどからベテランの男を苛立たせる新人が僕に近づいてきた。

「榊さん、機嫌悪そうですね」

「榊って言うんだ、あの人」

「はい、僕は2度目なんですけど…あっ、僕、高木って言います」

「あぁ…僕は4度目だ…この間の出動でチームが解体になって…あの人とは初めてなんだ、桜だ…よろしく」


 先頭を歩く3人の盾が『サイリウム』をパキッと割って、盾を正面に構えた。

「皮肉ですよね…あの棒、昔はオタクの遊び道具だったのに…」

「そうだな…今はスライムを誘き出すエサみたいな使われ方になっちまったな」


『盾』の少し後ろでタバコに火を点けて吹かす榊が月を見ている。

(あんなクーデターが起きなければ…僕は今頃、何をしていたんだろう?)


「来たぞ!!」

 榊がタバコを吐き捨て、怒鳴った。

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