ボトムズ

桜雪

プロローグ

第1話 崩壊

神を始祖とする「日本」という国があった。

長き歴史を紡ぐ国であり、かつては黄金郷とも呼ばれた小さな島国である。

歴史の移り変わりで黄金郷は経済大国と呼ばれ…そして滅びた。


最後の首相となった男が掲げた経済政策は稚拙で識者に鼻で笑われていたが、強行に推進した結果、この国に長く産まれなかった『思想家』を産み落とした。

『自由』『平等』といった量産的な教育の反面『個性』を尊重するという教育理論は迷走し、人間的な成熟を知らぬ『大人』を大量生産したまま社会の歯車は狂ったように回っていた時代、その終焉は約束されていたように訪れた。


老人が自殺を選び、幼い子供が自死を求める。

死にたがりを大量に孕んだ国は腐るように衰退していく、議事堂には民衆が溢れだし、『改革』を叫び続けたが、誰の頭の中にも策は見当たらない。

『虚無』の思想が膨らみ、政治家が議事堂に立て籠もる構図となって数日…

1発の銃弾が終末の刻を知らせた。


『大量虐殺』


誰が誰を殺したか…そこに居た人間にも解りはしない。

議事堂から皇居へ…たった4時間で『日本』は崩壊したのである。


世界に中継で流れた映像、議事堂の壇上で『ナニカ』を語った若者は、その40分後に死体となって議事堂の床に転がっていた。

何を語ったのか?

誰の記憶にも残らない稚拙な世迷言…


終末の刻を告げた銃声が仕組まれたものであったと知る者は少ない。

今となっては、どうでもいいことだ。


『日本』という国は主君不在のまま、機能している。

生産力に欠け、すでに在る物を売り、無い物を買う、それしか出来ない国として…

某国とのレートは1ドル=500円の超円安を維持している。


この国は変わった。


大量生産から産み落とされた『救世主』は粗悪品であったのだ。


空っぽの思想、掴めない夢想を掲げた若者は、誰しもが『救世主』であり、量産品であるが故、その性能に差は無かった。


あの日、壇上で『ナニカ』を誇らしげに語った若者は、誰であったのだろう?

きっと誰でも無く…誰にでも成り得たのだ。


神の血脈は途絶えた。

神殺しの罪は、あまりに大きかった…


『スライム』と呼ばれる生物が汚水から湧き出してきたのは、この頃だったのであろうか…

『罰』と呼ぶには早すぎて…『罪』と呼ぶには遅すぎた。


世界に溢れる『スライム』

『日本』は『スライム』によって成り立つ国として生まれ変わっていた。


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