第78話 メーテル、またひとつ星が消えたよ

 やあ、おいらです。


 治ったかなと思うとブリ返して来ます。喉と頭が痛い。咳のしすぎで肺が痛い。前にも書いたかな? 重複じゃ。


 どうも、自分の書いて来たものが駄文エッセイではなくて単なる日記のような気がして来ました。おいらは、駄文は駄文として、様々なジャンルを凝縮したものという隠れた矜持があったのですが、これが日記だったとなると……奥さんの家計簿とどこが違うんだあ! あっ、奥さん、ごめんなさい。いろいろ役立ちますよね。家計簿。


 そこに老人の声がした。

「日記の何が悪い。蕎麦屋の娘の書いた『更級日記』やら、鰹のタタキのうまさを書いた『土佐日記』などいろいろあるであろう」


 老人と書いたが狂人であった。


「わしが誰かわかるか?」


 老人が挑発して来た。


「越後の縮緬問屋の隠居を詐称する人殺しの首領だ」


「ほう」


「いいことを教えてやろう。私が認める『水戸黄門』の水戸光圀はあんた、つまり東野英治郎氏でなければならない。西村晃氏は少し認める。悪役出身だからな。水戸光圀は悪人じゃなきゃだめだ。あとのはクソだ」


「ほめ言葉と受け取っておこう」


「それと第一シリーズは格さんが横内正で、助さんが杉良太郎だったでしょ。あれはキャスキングミス。自分が主演か重鎮でないと納得しない杉良にさあ、脇役のシリーズキャラクターはムリ。最初から里見浩太朗にしとけばよかったんだ」


「はあ」


「あとさあ、風車の弥七って、江戸に十万も子分がいるって設定でしょ。出て来たの、うっかり八兵衛だけじゃん。おかしいよ。そもそも、弥七に八兵衛程度の子分しかいなかったってことないよね。それに親分がしょっちゅう長旅に出ちゃって、統率は大丈夫なの? 絶対に反乱が起きるよね。それをドラマでやれば面白かったのにさ」


「おっしゃる通りですな」


「でさあ、一番の問題点は水戸光圀、あなたですよ。これはよく知られているけど、あなた、水戸藩と江戸しかほとんど往復していませんよね。何が漫遊記だよ。笑っちゃうね。ねえ、あなた江戸の時、庶民を試し切りしていますよね」


「……俗説です」


「生類憐れみの令の時代に将軍綱吉に、犬の毛で作った着物を献上していますよね」


「……俗説のきわみ」


「まあ、いいんですよ。おいらは東野英治郎主演、渥美格之進役横内正、佐々木助三郎役里見浩太朗、風車に弥七役中谷一郎、うっかり八兵衛役高橋元太郎の『水戸黄門』が観たいの」


「私、死んでますので。中谷一郎さんもなくなっていますし……」

 それをどうにかするのがプロデューサーの役目! おい、かっぱくん。プロデューサーをやれ!

「はあ? なんの」

 とにかくやれ! 古いものほど良くできているもんだ。

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