逃げ残れ
開始から既に十分経過。
服装自由に、殺傷能力のある武器も可。
鬼は黒づくめ。
殺しても数は減らないらしく、また校内からの脱出も許されない。
生き残れるか?
そう問い掛けられたらYESというか、応と答えるか。
殺しても意味が無い鬼を殺す瞬間は、殺されそう、逃げ切れそうにない、という状況下のみでいい。
この十分間に残念ながら運動音痴が数名死んだ。
鬼の目から逃れようと身を隠しても、それが絶対的に見つからない場所ならいいけど、そうじゃないなら時間の問題。
「ど、どうすんだよぉ。」
「黙れ。喋るな。」
生き残りたいなら声も音も殺せ。
一緒にいると生存確率が下がる奴とは居たくはないけど、冷酷なことをしていいんなら、コイツを盾に、時間稼ぎに、なんだって使ってやるさ。
怯えるコイツが咄嗟に逃げに転じる瞬間にでも、足を引っ掛けてやればいい。
コイツが殺されてる間に逃げれる。
そうだ、だから誰かと一緒にいなくちゃ生き残れない。
最後の一人になっても、制限時間がまだまだあった場合、やることは一つ。
死体の近くで待機。
死体を盾にして相手を殺し制限時間を突破することだけ。
そこまで冷静になれるのは、慣れだろうと思う。
捨て駒だ。
皆、皆、捨て駒にしてやるんだ。
足音が近付いてくる。
まだ、バレてない。
こういう時は、下手に動かない方がいい。
動くことによって気付かれでもしたら。
大丈夫。
逃げ場のない場所で待機するほど馬鹿じゃない。
「来てるっ!」
馬鹿め。
コソコソと逃げ出そうとした男子は、恐怖からくる鈍りで椅子に体が当たって音を出した。
足音が気付いた。
教室のドアは開いているのだから、わざわざ逆のドアを開け放つことはしないはず。
掃除用具入れの前で、小さくなって息を殺す。
開いているドアに足が一歩目。
その目はわざわざこちらを第一に見ないだろう。
ましてや、足元なんて。
男子はロックオンされた。
あれはもう、ダメだ。
殺される。
なら、距離的に男子を掴むくらいこちらから離れたところでその大きな隙にこの教室から出ていってやる。
一歩、二歩、走れ。
男子に手を伸ばした。
どうせなら、時間を稼いで死ね!
廊下の様子を伺って教室から出る。
足音が響かないように、他の教室に鬼がいたとしても走り抜けろ。
身体能力は自信ある。
鬼の速さなら、障害物を乗り越えるのだとしても問題ない。
曲がり角、影が落ちていないことを確認。
足音もない。
走る。
階段を駆け登った。
本当は体力温存する為にあまり走ったりしない方がいい。
おっと、危ない。
バレてないな?
鬼が階段を登っている。
気付いてないなら尾行気分で背中を一定の距離を保って追う。
途中、別の階数でお別れ。
上から外を伺う。
運動場は鬼いないな?
下には1階の平らな屋根。
あ。
あそこに降りることができるなら、そこに待機してりゃ鬼は来ないんじゃないか?
そうだ。
そこに丁度身を隠せる場所があるんだ。
周囲を注意深く伺ってから窓を開ける。
足をかけてから身を回して窓の縁を掴んで、窓を閉めておく。
ここの窓だけ鍵が閉まってないとか、いちいち確認する鬼はいない。
大丈夫だ。
窓さえ閉めていれば。
あとは、飛び降りればいい。
さっさと降りてしまえ。
降りた音は響かない。
一応気付かれていないか、可能性のある方向は全て確認。
そこにある物陰に身を小さくして待機。
もし、鬼が来て、バレたとしても、逃げられる。
隠れんぼで鬼に見つかったことはない。
悲しくも行方不明扱いになったけど。
人の死角が考えなくても直感でわかる。
そこに滑り込んでいればいい。
あとは人の動きが予想出来れば、たとえすぐそばにいたとしても見つからない。
普段、無意識に人の死角に入ってしまうのを考えてみれば、このリアル鬼ごっこは有利なんじゃないか。
鬼ごっこだって鬼をやれば全員捕まえられるし、逃げる側だって捕まったことがない。
この身体能力と観察眼、そして思考力と忍耐力と…取り敢えず全部発揮してしまえば、こっちのもの。
そりゃそうだ。
昔から、はるか昔から得意なこと。
忍べばいい。
前世の記憶だってある。
知識も知恵も技術も全部ここにある。
今は忍じゃないにしろ、今だってじゅうぶん動ける。
忍の頃ほどじゃないけど、並大抵じゃない。
自分で言うのもなんだけど。
腹減りでグルルと腹が鳴ることもない。
前世の記憶が戻ってからずっと訓練してた。
出来る範囲で。
鍛錬もした。
親もびっくりするよな。
だって、いきなり5歳児がそんなことやりだすし、賢くなるし。
得意科目は、英語以外!
全部いけるね。
異国語だけは慣れないんだよなぁ。
あと、前世と比べて楽な時代になったんじゃないかって思う。
暗殺技術なんて今この状況に出会わなかったら意味なんてなかっただろうな。
忍最高!
っていうか、このリアル鬼ごっこってやつは前世の修行の一環のあれと同じだと思う。
つまり、生き残れる自信どころか確信があるってわけ。
スマホの充電100%。
使わないから当然だけど。
いざというときの為に充電の無駄遣いはしない。
必要最低限でいい。
無駄なことはない主義。
耐え忍べ。
生き残れ。
簡単なことじゃないか。
忍術だってご健在だぜ?
どうとでも逃げ仰せてやる。
見とけよ。
制限時間まで残り七日。
ネタ 影宮 @yagami_kagemiya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ネタの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます