第46話


「そもそも、寝所の存在自体が、不思議だとは思われませぬか?」


 大神様は意味ありげに言われる。


「……………」


 それは聡い天の大神様は、片方の眉をピクリと動かされた。


「寝所は大神だけの物。神には有りませぬ。だが、我らは皆と同様屋敷を構えて住む事ができる。神殿宮殿にも住める……なのに、我らだけに寝所は存在しておる。で無くとは休まらぬわけでもなく、存在できぬわけでもないのに、は在るのです。では、は誰が創ったのです?太古様か?天の大神様の太古様か?」


「はっ?その様な事聞いた事もない」


「……であろう。は天意で存在しているのだから……」


「天意だと?地球か宇宙か?」


「その様な事知る必要もない。だが、天意である事は確か。天照はに牽制しておる。延いては其方を牽制しておる。そして、其方は今の様に、天照を牽制しておる。天意は二人を牽制させて、それで均整を計っておるのだ」


「は?何故その様な事を?」


「絶対的君主は、天意であるべきだからです」


 大神様は天の大神様が、スッと光を落とされたのを見られた。


「我らはしもべなのですよ大神。この星延いては宇宙にかしずく僕なのです。それを、お忘れになられてはなりません。〝絶対君主〟になろうなどと、欲をかかれてはなりません」


「………………」


 天の大神様は、ジッと輝きを落とされて考え込まれた。


「我らは見張られておるのか?」


「……………」


「此処は宇宙にまで続いておる。つまり、天意は我らを監視しておるのか?何故に?」


 天の大神様は、ジッと寝所を見回された。


「我らは真に宇宙に打って出れるのか?我ら大神はその〝もの〟を持って生まれる。代を替え塵となって、再びその〝もの〟となりて誕生する。この星にだ……それは我らだけだ……いや、違う……森羅万象の根元神か?」


「………………」


「其方らは知らぬかもしれぬが、根元神が在わすとか?それは余りに昔過ぎて、伝説となられておられるお方だ……。そのお方のご意思か?……そうか、そのお方こそが天意か?」


「私はその様なお方の事は、聞いた事もない」


「……であろう。私もかの昔の大神からの記憶だ。若いものは誰も知らぬやもしれん……。あのお方にとって地上のものは、全てこの星延いては宇宙の為にあるもの。そのもの達が如何になろうと、何の関わりも無いお方だ。宇宙に在わして、只星の均整と宇宙の均整をたっとぶだけのお方……。真に在わされたのか……」


 天の大神様は至極納得された様に、再び神々と輝かれた。


「つまりは我ら大神は、子孫を残せぬという事か……。それがあのお方のご意思か……」


「さも残念そうでございますな」


「致し方ない。あのお方には到底敵わぬ」


「しかしながら、は天の遥か彼方のお方。此方の其方と天照が逆となろうとも、牽制さえ致しておれば、変わりはあるまい?」


 天の大神様は、大神様のご真意が計れずに凝視された。

 煌々と輝くその美しさで、大神様ですら輝いて見えた。


「まだ深く思い合わぬ内に、此処に召されよ」


 大神様が天の大神様に、ほくそ笑みを浮かべて言われた。


「互いが思い合う迄には、いろいろな感情が交錯するもの。思いにも、段階というものがある。其方には気持ちがあるが、相手の気持ちが解らぬ時が必ずやある。相手も思っておるのが解っておるのに、全てを捧げてくれぬ時がある。期待より不安、快楽より痛みが交錯するその一瞬にのみ、機会があるのやもしれぬ。私は最早試す事は有り得ぬ。何せ最愛の妻がおり、妃として知らしめたゆえ……」


 天の大神様は、大神様を凝視したままご覧になられている。


「……が、其方には試す機会がおありだ。もしもの時には是非試されよ。此処は其方の期待を裏切らぬだろう……。ならば、私はどう致すか……。私は私の生涯を掛けて、最愛なる妻との間に子を残すつもりだ」






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