第45話
「其方は天照と同様に、寝所の事を気にかけておったな?」
「はて?さようであったか?」
「天照はとても正直よ。其方は気にかけておりながら、決してそうとは認めぬ……。しかしあれは、気になって仕方ないゆえ、いろいろとしてくれた。そのおかげで私は太古様の思いを、取り戻す事ができた」
「太古様の思いとな?」
「かつて太古様は、寝所に愛するお方を召された」
「確かにその様には聞いてはおるが……あれは本当の事であったか?それとも噂か?幻想か?」
「ふふふ……。太古様は全てを、真に全てを消して逝かれた。だが、幾神にはそれが効かぬお方がおありだったはず……。全てではなくとも、多少の所はご存知のはず」
天の大神様は、その輝かしいお顔をお向けになられ、かなり輝きを落とされた。
「確かに大神誕生以来、初の妃が知らしめられた。だが、残念な事に子は成らなかったはず」
「さようで。それを苦に神泉に身を投げられたは、お隠れの身ではご存知ないか……」
「なんと!気の毒に……」
「天の大神、其方はそれが一番知りたいはず……」
「……………」
「太古様がお持ちだと言われた〝もの〟を、実は其方がお持ちであられた。あの太古様が、ただひとり見初められたお方以外に、欲する〝もの〟などあり様はずはない。それを、其方と太古様とを入れ替えて残された。ゆえに天照は過敏になったのだ、唯一あれだけはそれを確信していた……太古様がお持ちだったと言われている〝もの〟は、実は其方の〝野心〟だとな。だから、あれはいろいろと手出しをして参ったのだ」
大神様が真顔で仰った。すると天の大神様は
「ならば、寝所の秘密を教えてみよ」
と、直ぐに催促をされた。
「秘密などあるはずもない。此処は我らが鎮座して寝る所だ。それ以外になにがある?」
大神様は可笑しそうに、天の大神様をご覧になられて言われた。
「孕ますと言うは如何なのか?」
天の大神様は尚も、大真面目に問われる。
「其方にとってそれが一番気懸りであろう?その通りよ。孕ます所よ。だが、よいか大神、思い合ったもの達では成らぬのだ、此処では相思相愛ではならんのだ。……では、よくよくと思い浮ばれよ、此処に女子は大神と共に入れる。だが此処は愛する相手でなくとは如何なる?」
「……………」
「其方はそれすらも知らぬのか?愛する女子でなくとは、暫くすれば押し潰されるのよ。血飛沫を放ってな」
天の大神様は、一瞬顔付きをお変えになられた。
「では、愛しておらぬ女子を、如何して孕ます?押し潰される前に?」
天の大神様は、ジッと寝所を見回された。
「結局のところ此処では子は成さぬのだ。何故ゆえこの様な噂が流れた?言い伝えか?大神が唯一子を成し妃を得る?そんなものは有るはずがなかろう?そうであろう?大神様」
大神様は睨み付けて言われた。
「太古の昔から、野心を持っておるは其方だ。其方は天照の座を、我がものと致したいと思うておる。子を儲け、天上天下を手中に置きたいと思うておられる。確かに、其方だけがあれに取って代われるお方だ」
「……確かに太古は、其方同様野心野望などとは無縁のものよ。無知な侍女の一言で、太古が考えた事も無かったものへ興味を持った。だがそれはあれには只の思いつきだ。〝それも一興〟といった具合の、只の戯れ言に過ぎなかった。それなのに、それの所為であれはあれにとっての唯一無二の者を失った。嘆き悲しみ失意と失望の果てに、全てを消しやった。が、あれでも〝全て〟を消しやれぬもの達がいた。ゆえに、多少違う噂を残すは、いとも簡単であった……。さようか?子を残すは無理か?ならば、何故その様に言い伝わった?これは私が立てた噂ではないぞ」
天の大神様は、至極真顔で言われた。
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