第28話
「涼夜迦の封印を解いた。大神が消し去った刻印の封印はかなり手強いが、仮にも私も大神の名を頂くもの、手間取ったが封印を解いた。瞬間涼夜迦の額から、それは驚く程の閃光が放たれた。まるで、長年押し込められていた大神の思いが、解き放たれた様であった」
天照様は一息吐かれて、大神様のお顔を見つめられた。
「大神よ。何故太古は、それ程迄の思いを封印いたした?」
「……では何故貴方様は、かの方に余計な事を仰せになられました?」
「ほう?」
さも面白そうに言われた。
「貴方様は確かな事を……確かな事だけを仰せになられました。だが、それは仰せになられる必要は全くなかったはず?」
「確かに。だがずっと申しておるが、私は知りたかったのだ。あれが何を思って、〝彼処〟に召したかを……」
「ゆえにかの方は、太古様を信じきれなくなられた。ただ、孕ますだけの道具として扱われたと絶望された、太古様の期待に応えられぬ我が身を恥じて、神泉に呑まれて果てられた」
「さようか?涼夜迦のあの気性は、かの方からの〝物〟であったか?」
天照様は驚愕される様に言われ、大神様はそれは冷めた視線を向け続けられる。
「大神は崇高なるお方。大神は大神として誕生する。何故天意は大神を生み続ける?そして独神としながらも、興味も関心も無く誕生させる癖に、子孫を残す機会をお与えか?……しかし何故、未だに大神の子がいないのか?それを知りたくは、ございませぬか?」
大神様は明らかに不快気に、顔を歪められた。
「私にとって大神様は脅威なのです」
大神様はお顔を歪められた瞬間、ほくそ笑んで天照様を睨め付けられた。
「天照よ。其方の脅威は私ではなかろう?中の原を統治致そうと目論んだ、太古様でもあるまい?」
すると天照様は、顔色をサッと変えられた。
「其方の一番の脅威は私と対を成すお方、天の大神であろう?」
顔色を変えられて、微塵ともされぬ天照様を、見下される様に続けられた。
「あのお方は私と違い、それは美しい〝物〟でできて おり、聡く冷ややかで神々しい。美しく最高神と人々に崇められ、太陽神の其方よりも遥かに〝力〟をお持ちになり、気性も其方の上をいく。今はおとなしくお隠れであるが、あれに出て来られては厄介だ。ゆえに其方は誰よりもあのお方が怖い。大神であられるあの方は、当然ながら独神であり私同様〝寝所〟を有しておる。私が子孫を残し、あのお方がそれに気づき子孫を残そうとお考えになり、其方に対抗しようなどとお考えになられたら、到底其方には勝ち目がない。ゆえに其方寝所の秘密を知りたいのだな。だが、寝所の秘密は誰も知らぬ、大神は元来〝そっちの方〟には、全くと言っていい程関心がないからな。他の大神方すら〝そっち方面〟で使った方はおられない。唯一試された太古様が失敗しておるのだ……」
大神様はニヤリと、意地悪な笑みを浮かべられ、天照様を睨め付けられた。
「確かに我ら大神は、子を成せるか否かは興味深い……。其方は脅威なるお方を怖れる余り、とんとその辺の所が無関心の私に関心を持たせてしまった」
大神様は、それは恐ろしい形相を向けられる。
「其方は愛する者を失った失望の余り、太古様が消し去り封印した全てを解き放った。よいか全てだ。愛も遺恨も悔恨もそして野望もだ……。とんと無縁であった私に蘇らえさせたのだ。もしも、もしもだ。あのお方がお姿を現されお望みになられたならば、天にあのお方が、そして中に私が居る事を忘れるでない。私はあのお方の意に従う……だが今迄の温情に免じ、あのお方がお気づきにならねば、私からは何も申さぬと約束しよう」
大神様はそう言われると、挨拶もされずにスッと姿をお消しになられた。
……大神はただ大神で誕生する。誕生する以前から、その〝物〟が大神の〝物〟だからだ。だから、この星の何よりも強く、そして冷酷だ。宇宙からの〝力〟を得、宇宙に打って出れるのも大神だけだ……
天照様は起こしてはならぬものを、起こしてしまった後悔に苛まれた。
美しい〝物〟でできている天の大神よりも、硬い〝物〟でしか成り立っていない、あの大神の方が遥かに恐ろしい。
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