第18話

「若様はどちらのお方で?」


 住職は小さな本堂で、白蘭に恐る恐ると聞いた。

 大神と紹介されたが、その様な事は信じていない。

 この乱世において武士達は殺し合い、関係のない人々も大勢死んで行った。先程の残念少女の台詞ではないが、怨念やら無念やら沢山のものが、魑魅魍魎と化して蔓延っているのは確かで、鬼も妖魔も化け物も存在るのも確かだ。

 こんな世を生きて仏に仕える身でありながら、神や仏を信じられなくなっているのも本当だ。


「先程も申した通り大神様であられる」


「……では、なにゆえ地上にお出でで?」


「……それは……」


 魑魅魍魎が蔓延る程の乱世で、愛した女性の為に大神たるものが、降臨したなどと言えよう筈もない。


「世を……現世を見に参ったのだ。其方達人間は業ゆえに殺し合うが、大神様は痛くご心痛であられるのだ。この乱世の世が終えれば、魑魅魍魎退治も致せるものを……」


 白蘭は苦し紛れに、言い訳の様に言った。


「乱世が終われば、魑魅魍魎も居なくなりますか?」


 住職は神妙に白蘭に問いかける。


「いや……神々様方に協議を頂き、お許しが出れば大神様が一掃されるであろう」


 申し訳なさそうに答えるしかない。


「お許し頂けなければ?」


 住職は人々の苦痛が少しでも早く無くなればと、問わずにはいられない。


「それはない……安心致せ」


 白蘭は、確かな事しか返事をしない。

 この乱世が続き魑魅魍魎が闊歩するようになれば、世が乱れるから神々様方はお出ましになり、悪しきもの達を成敗なされる。

 それは確かな事だが、それがどの位先かは解らない。


「ならば、乱世をどうにかしてくれ」


 残念少女は不敬にも大神様に言った。


「人々が致す事に、手出しを致す事はできぬのだ」


 大神様は、愛しい涼夜迦に似ても似つかぬ残念少女を、哀愁を帯びて見つめながら言われた。


「何故だ?神なのだろう?仏様より偉いんだろう?」


「仏より偉い……という事はない。ただ、人々の事は人々が決めて行くものだ。しかしながら、それゆえに、天意に逆らう様な事があらば、指針を示す事は致すが……」


 大神様は横柄な態度の残念少女に、諭す様に言われる。


「それが神の意思って事だろう?」


「其方の言いたい事が解らぬ……」


「私もの言っている事が解らない」


 太々しい残念少女は、大神様に不敬な態度を見せびらかす様にする。

 大神様はその度に、悲し気に残念少女をご覧になられる。


「ところで、鬼を成敗すると申しておったが?其方の様な人間如きに、成敗できるものではないぞ」


 白蘭は残念少女に言って聞かせた。


「私には鬼を殺す秘薬があるんだ」


「鬼を殺せる秘薬とな?」


 大神様と白蘭は眉間に皺を寄せて、見合わさられた。


「うん。私は親なし子で、巫女様に拾われて育てて貰った。その巫女様もいろいろあって亡くなられてしまったが、その巫女様が鬼を殺す秘薬をお持ちだったのだ」


「なぜ殺せると?巫女が申したか?」


「うん。これで殺せると……」


 残念少女は懐から大事そうに竹筒を出して見せた。


「どれ……」


 白蘭が中を見ようとすると


「駄目だ。誰にも見せるなと遺言だ」


 大慌てで竹筒を懐に仕舞って言った。


「鬼に効く毒など、聞いた事がございません」


 白蘭は神妙に大神様に告げた。


「うむ……」


 大神様も頷かれながら、残念少女を見つめられた。


「其方、この者とは懇意なのか?」


 大神様が住職に問われた。


「あー、流れ来た者でございますが、いろいろなものを見る事ができ、多少の除霊をする事ができる為、此処に止まって私の手伝いをしておるのです」


「ほう……名を何と申す?」


「〝やか〟と申します」


「なんと〝やか〟とな?」


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