第17話

 小さな村の寺で、見るからに生意気そうな痩せた少女が、其処の住職に生意気な事を言っている。

 お世辞にも可愛いとか、可憐だなどという言葉が似合わない、ちょっと残念少女だ。


「なに?娘を人身御供にするだと?」


 残念少女は、住職の胸ぐらを掴んで言った。


「……そうせねば、この村の子供達は皆鬼達に喰われてしまう」


「は?鬼如きに恐れをなして、大事な娘を差し出すか?」


「し、仕方がない……村の子供達の為だ……」


 住職は涙を流して言った。



「大神様……が、あの……あの可憐で麗しき涼夜迦の、生まれ変わりにございますか?まことにさようにございますか?私には信じられません」


「………」


 大神様と白蘭は、この村で唯一の寺の外で、一部始終をご覧になられていて、大神様はお目に泪をお溜めになられ、なにも仰せになられない。


「解った!」


 残念少女は住職の胸ぐらをを、パッと離して言い放った。


「私が娘の代わりをする」


「な、なにを言う?」


「私とて同じ年頃のだ。を差し出せば済む事なのだろう?どっちが行こうと変わりない!」


「馬鹿を言うな。お前には全く関係のない村の事だろう?」


「そうだが、娘にはお前の様な父もおるし母も兄弟達もおる。天涯孤独の私とは違う」


「そうは言っても……」


「美貌は劣るが娘は娘だ。あいつ等が如何にして楽しむにしても、生娘の肉は柔くて美味いし、であれば……まあ、目をつぶって貰うしかない」


 豪快に楽し気に笑った。

 その言葉を聞いて、慌てられたは大神様だ。

 最愛なる涼夜迦を鬼に辱められたが為に失い、生まれ変わりの者に再び鬼の垢が付くとは、大神たるものの面目が立たない。


「ちょ、ちょっと待て」


 大神様は、残念少女と住職の間に割って入られた。


「鬼になど二度と触らせてなるものか!」


 もの凄い形相で残念少女を見る。

 もの凄い形相で残念少女を見るも、残念少女は唖然として急に割って入って来た、それは高貴な佇まいの若様を凝視した。


「ど、どなた様で?」


 住職がオドオドと、大神様を認めながら聞いた。


「こちら様は尊くも、大神様に在らせられる」


 白蘭が、一歩も二歩も遅ればせながら、割って入って言った。


「大神様?」


 住職と残念少女は異口同音で言う。


「さよう、大神である」


 大神様が残念少女にドヤ顔を向けて言った。


「あっそ……」


 残念少女は、驚く事も畏まる事もせずに言い捨てた。


「な、なんという態度であろう?」


 白蘭は残念少女を睨め付けて言った。


「あんなに可憐であったに……」


「はぁ?今は乱世の世だ。多くの人間が死ぬ、それ等の怨念や何やらで、この世は魑魅魍魎ちみもうりょうが蔓延ってる。神だろうが大神だろうが、居てもおかしくない時代だ、一々驚いてたら、それこそ身が持たん」


「な、なんたるいいよう」


 白蘭はかつては愛らしかった涼夜迦を思い、苦虫を噛み潰したような顔を作って言った。


「とにかく私がこいつの娘の代わりに、鬼に差し出される。文句があるなら、腕尽くで止めてみな」


 なんとも可愛い気のない形相で、啖呵を切った。


「なんたる……なんたる……。美貌もへったくれもない身で、よくも大神様にそのような口を……」


 白蘭はワナワナと手を震わせて言った。


「ふん!」


 臆面もなくそう言って白蘭に、不細工な顔を近づける。


「なんたる変わりようであろうか……」


 大神様はそうお言いになられて、太々しい態度でいる残念少女を、それは悲し気にご覧になられている。


「……がしかし、其方が鬼の餌食になるは、この大神の面目が立たぬ、ゆえに其方を止められぬならば、その鬼めを成敗いたすのみ」


 大神様は、至極大真面目に言われた。


「はぁ?何を言っておるか知らぬが、成敗するのはこの私だ。手出し無用としてもらいたい」


「何を小賢しい事を……」


 白蘭はさすがに堪忍袋の緒が切れたように、残念少女の面前に平手を差し出した。


「よせ!白蘭!」


 大神様は大声で白蘭を叱咤された。

 白蘭はすぐ様手を離した。


「よい。其方の好きに致すがよかろう……」


 大神様は残念少女を凝視されて言われた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る