第二章 元光合成大神は、恋に猛進する

第15話

 大神様はずっとお隠れになっている……。

 それは、ご誕生の砌よりお仕えする白蘭が、心配する程だ。

 大神様がお隠れになられたら、その強情なご性格ゆえ、想像するは簡単であるが、いつまで続くか解らない。

 なにせかの昔、神々様から煙たがれ幽閉の憂き目に遭われた時は、ご自身のお気持ちではないにしろ、三千年程お隠れになられていたが、決して意志を曲げるお気持ちなど、微塵たりとてお持ちになられなかった。

 

大神様の〝ご寝所〟の入り口まで行っては、宥め賺してみるものの、大神様は聞こえぬフリを決め込まれておいでだ。

 ただ、お怒りゆえかお嘆きゆえか、フルフルと地が震えている。

 大地をつかさどる大神様は、そのご感情が地と共鳴する。

 激しく怒れば激しく揺れるし、火山も噴火させる。

 こう長い事フルフルと地が震えていれば、大神様のご感情とは関係無く、大地が大きく揺れかねない。

 今日も今日とて


「大神様、お姿をお見せください……」


 白蘭は大神様に声をかけ続けている。


「今日も駄目か……」


 ほぉーとため息を吐いていると、それは目映い光が、辺りを焼き尽くしそうな神々しさで、ご寝所に入って行かれるのを見た。


「天照様ご来臨であられるか……」


 白蘭は呟いた。


 寝所に入った天照様を、涼夜迦の美しさのお陰で、直視できる様になられた大神様は、端座されたままご覧になられた。


「いつまでそのように、拗ねておいでのおつもりか?」


 それはそれはお美しい天照様は、代替わりして間もなく、誕生してからも間もない、若い大神様に仰った。


「いつまでも……」


「いつまでも?はぁ?なんとも我儘な……」


 嘆息して言われる。


「其方とてかの昔隠れたであろう……」


「あれとこれとでは、次元が違います」


「隠れた事には変わりない……」


 拗ね拗ね大神は、無気力なお顔を向けて力なく言われる。


「……と申されても、今のように拗ね拗ねしていて地が揺れておれば、その内大地が大きく揺れかねませぬ」


「知った事ではない」


「なんと!大神様ともあろうお方が、その様な事を?」


「かの昔、其方も知った事ではなく隠れたが為、地上は暗闇に包まれたではないか」


「まったく、ああ言えばこう申される……」


 天照様は、余りの幼稚さに呆れるばかりだ。


「もし、大地が大きく揺れ始めれば、その揺れはどんどん大きくなりますぞ」


「………………」


「その様な事になりましたら、中の原は大きな災害となります。したらば、生まれ変わりし涼夜迦が、我らが知らぬ内に死んでしまいますぞ」


「涼夜迦は生まれ変わっておるのか?」


「……。我らが知らぬ内に死んでしもうたら、閻魔の裁決にあい、の生まれ変わりかどうかを、調べるに時を要しますぞ」


「涼夜迦は生まれ変わっておるのか?」


「屍を使いの、全力を費やしましたゆえ、最短で最速に生まれ変わっております」


 天照様はその偉大なお力を、誇示するように言われた。


「どこに?何処に生まれ変わっておる?誕生したばかりか?」


「……それこそ最短最速、わたくしの全力でございますよ?其方がめそめそと拗ねておる内に、人間でいう処の十四、十五となっております」


「な、なんと……」


 大神様は、お顔を明るくされて天照様をご覧になられた。


「わたくしの従者に探させましたゆえ、ほらご覧あれ」


 天照様は鏡を懐より出されて、大神様に覗かせた。


「天照よ。どれが涼夜迦の生まれ変わりであるか?」


 大神様は食い入るように、鏡を覗かれて問われた。


「……ゆえにほれ……」


 天照様は、共に覗かれて絶句された。

 鏡には十四、十五のそれは活発そうな少女が映し出されているが、とても涼夜迦とは似ても似つかない。

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