第14話
大神様と龍神様は大勢の従者を使って、涼夜迦をお探しになられた。
信濃川の河川で大神様は、煌々と光り輝く一帯を認めて近寄られた。
「天照……」
それは美しい太陽神の天照様が、夜明けの川の辺りに佇まれて、険しい形相の大神様を迎え見られた。
「なにゆえ其方が此処におる?」
見ると辺りに鬼と河童の死骸が、ゴロゴロとしている。
「其方の想い人は鬼達に汚され、それを苦に果てた」
「なにを申しておる?」
「ゆえに汚されたを苦に果てたのだ、其方の大事な者が……」
天照様は大神様を直視して、悪びれずに言われた。
「なぜ其方がその様な事存じておる?」
「昨夜は天に在って、〝中〟を見ておったのだ。すると目を見張る美女が、鬼共に甚振られておったが、気丈な者よ恥ずかし目を受けるならばと、舌を噛み切ろうとしたが、鬼に手を入れられ鬼の指を噛み切る間に、哀れにも汚されてしまった。私はすぐさま駆け付けたが間に合わず、兎にも角にも腹ただしいので、このものたちを八つ裂きに致した」
「……して、涼夜迦は何処へ?」
大神様は泪を流されて天照様に問われた。
「あの者は、このまま死なせてくれろと懇願致した」
「死なせたのか?」
「あの者の望みである」
「な、なにを……。屍は?屍さえあらば、今一度あれを生き返らせる」
「おうよ。大神が見初めれば、死んだ者も生き返らせる。だが大神様、それをあの者は望んでおりませぬ……」
「何故だ?私と永遠に共にいると誓ったのだぞ?屍を……」
大神様は涼夜迦の死骸を探す様に言われた。
「屍はない」
「何を!」
大神様は今まで怖気付いて近寄る事すら憚られていた、それは神々しい天照様に殴りかかろうとされた。
「大神様、あの者の願いは、貴方様のお側に仕え、一心に愛される事であった。しかし鬼に汚されては如何様にもならん。只汚されただけでも、大神に仕えるは叶わぬのに、鬼の気を受けては側にすら寄れぬ……ご存知であろう?」
大神様は泪を落とされながら、天照様の言葉をお聞きになられた。
「お諦めなさいまし。ゆえにあの者は、私に懇願したのです。助けてくれるなと申したのです……」
涼夜迦は世にも美しく目が眩む程の神々しいお方を、大神様がお話しなさる天照様だと確信してお願いした。
「大神様にお仕えできぬ身となった今、もはや生きている意味がないのです。どうか女神様のご慈悲で死に果てる事をお許しくださいませ」
涼夜迦は両手を合わせて天照様を仰ぎ見て、静かに大神様が愛してやまぬその清らかな瞳を閉じた。
「……して、あの者の屍は?」
お側に共に参った龍神様が、静かにお聞きになった。
「大神を想うあの者、余りに哀れゆえ転生させた」
「………」
大神様と龍神様は、天照様をじっと見つめられた。
「屍を使えば閻魔など通さずとも、最も簡単に致せるゆえ、あれをすぐさま転生させてやった。ゆえに屍はない」
天照様はムッとして言い放たれた。
大神様はその頑固なご性格ゆえ、一度思った事は通される。
己の不利や相手の気持ちなど構いなしだ。
屍があれば、どんなに周りが進言忠告致そうとも、涼夜迦を生き返らせ、あの清らかな涼夜迦を辛苦の地獄に落とす事だろう。
初めて恋を知った大神様には、まだ涼夜迦の真の幸せをお考えになる、そんな余裕はお有りにならない。
それを知っておいでの天照様は、代替わりしたばかりの若き大神様に、情をお持ちゆえに涼夜迦の願いを叶えて転生させた。
最高神と呼ばれる女神様を、遠目でしか眺められずにいた、頑固な大神様に慈悲をお与えになったのだ。
大神様は〝大神の寝所〟に、ずっとお隠れになられている。
「暫くそうさせておけ」
天照様は、心配しきりの白蘭達神使にそう言い渡された。
恋を知った光合成大神様は、失くした恋人の為にお隠れになられる。
ずっとずっといつまでも……。
大神様のずっとは、それはそれは果てしなく永い……。
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