第12話

「あれを寝所に迎え入れようかと思う」


 大神様が一番に信頼する白蘭にそう言ったのは、翌日の事だった。


「ご寝所……に、ございますか?彼処は……」


「解っておる。だが、私は決意した。を我が妃と全てのものに知らしめたい」


「しかしながら……ご寝所の儀式はそれは苛酷と聞き及びます」


「だが、を永遠に我が傍らに置くは、其れが一番と考えた」


 白蘭は暫し考えた。

 大神様のお力が有れば、涼夜迦一人くらい永遠にお側に置く事は可能なはず。

 いや……。もしや、ご自分の生涯において……の、お考えか?

 それは、それは果てしなく永遠を意味する。

 宇宙……いや、最低でも地球が生きている限り……だ。

 どんなものにもこの世界が存在する限り、寿命というものがある。其れが常しえの様に長いか、高々の年月の違いがあるだけだ。

 神様とて大神様とてはある、が大神様は自然に生まれ、そして代を替わられる。そして全ての記憶を残して代替えされる。塵と成り自然と同化した大神様は、再び自然とご誕生される。それは、持って生まれる物が大神の物だからだ。

 大神以外のものには成り得ない。

 其れが地球……宇宙……つまりは〝天意〟だ。


 ……その先、その先をお考えであるのか?……


 白蘭は息を飲んだ。

 大神様は強固で頑丈な物でできておられる。

 大神様とてたったお一人ではない。

 他にも数人の大神様がおいでになるが、大神様ほど強靭なお方はおいでにならない。ゆえに、とにかく一途なところがお有りになる。

 で知らしめた妃は、永遠に妃様だ。

 仮令、大神様の寿命が終えられ塵と成り、再び永の年月をかけご誕生になられたとしても、仮令大神様の一部となってご誕生になられようと……。


 ……その後も添い遂げる術が、にはあるのか?……


 白蘭は思考を目一杯巡らせて考えている。


 ……太古の昔で契られたおふたりか……


 白蘭は〝大神の寝所〟の恐るべき威力に驚嘆した。

 独神たる大神が唯一妻を迎えられる場所は、余りにも巨大な威力を持っている。

 とにかく神の寿命は長い。

 眷属神と〝神〟の名を頂く白蘭よりも長い。

 その永きに渡るその先の先まで縁は続く。

 果てしなく気が遠く成りそして考える事に疲れる程の、そんなご縁を望まれるのか……。

 白蘭は絶句した。言葉など出てこようはずもない。



「まあ?なんといじらしい……」


 白蘭の話しを聞いた紫蘭は、唖然とするように言った。


「一途なあのお方の、想い詰められそうな事ではありますが……」


「如何致したものと考えるが、大神様の想いは固い。……だけでなく、それは一途な上に頑固だ、こうと一度決められたらどうにもならん」


 白蘭はため息を吐いた。


に迎え入れれば、大神様の一部となった者が再びお仕えできるのでしょうか?涼夜迦と成りてお仕えできるのでしょうか?」


「私も其処は疑問あるが、大神様がそうお決めになられたとなると、何か手があるのやもしれぬ」


「………貴方様、で妃となった者は、大神様のご誕生と共に再び誕生し、大神様の中にある一部と呼び合うのやもしれませぬ……」


「は?」


「……ならば、なんと浪漫ではございませんぬか?互いが互いを生涯……死して尚求め合うなど、女子の浪漫でございます」


 紫蘭はいつも冷静な面を、かなぐり捨てて言った。


「はあ……女子とは、まことに浪漫が好きであるなぁ……」


 白蘭はため息を吐きながらも、あながち浪漫だけではないと思っている。


「とにかく、の事は、涼夜迦に決めさせるしかございません。命をかけるはあの者にございます」


 紫蘭はいつもの紫蘭に戻って言った。



 事のあらましを聞いた涼夜迦は 、それは歓喜に満ちた表情を紫蘭に見せた。


「大神様とそのようなご縁を頂けるならば、この命を幾つ捧げようとかまいません」


 涼夜迦はそれは嬉しそうに言った。


 ……これは白蘭の言う通り、太古のお方に間違いない……


 紫蘭は果てしない〝愛〟を垣間見て、頭を垂れる思いで歓喜に泪する涼夜迦を見つめた。

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