第8話
……なんと女とは恐ろしい事を考えるものだ……
白蘭は最愛なる紫蘭といえども、恐ろしくて身が震えた。
〝大神の寝所〟というのは、いうまでもなく大神様が鎮座し就寝される場所だ。
それは宇宙に迄空間が繋がっている、神聖で神気が高い場所だ。
大神様は生まれた時から大神様だ。
男神様と女神様でお作りになるものではない。
宇宙はたまた地球の意思で誕生されるものだから、実体というものがない。
だから、果てしなく広々と広がる〝空間〟でお休みになられる。
其処は宇宙から母なる地球から、エネルギー又は神気を得られる所だ。
大神様以外のものが入れば、その偉大なるエネルギーに押し潰されてしまう、そんな場所だ。
だが、唯一其処に大神様と共に入れるものがいる。
それは、大神様が子孫を残す事を目的とした場合に連れて行く、子を生めるものだ。
それが生物でも女神でも精霊でも妖魔等々でも……。
そして三日三晩大神様の恩情を受け、そのものの意思とは関係なく子を授かる。
つまり〝其処〟に入ったものは、大神様の妃となり子の母となる。
子は大神様の子となり神となると。
それら全てを地球、そして宇宙に知らしめる場所なのだ。
だが、大神様の恩情を受けると一口で言うが、決して楽なものではない。
三日三晩子授けの儀式をし続けるわけだが、手荒い独神の大神様のなさる事だから、〝其処〟から出て来るまでに生きておれぬものもいるという。
それ程過酷な場所だと言われているが、今存在する〝もの達〟は誰も本当のところは知らない。永きに渡って大神様が子孫を残す為に、招き入れたものはいないのだ。
第一大神様の様に子孫を残す事を考えない方がいる、第二に其処までしなくとも、大神様は本来の〝物〟はないが、自在にお創りになる事はおできになるので、残そうとお思いに成られれば子作りはおできになられるから、だから今の時代のもの達は、大神様を含めて知らないのだ。
だが太古の昔、何かの事情によって〝其処〟を使わなくてはならなかった事が、ある事だけは確かな事だ。
紫蘭は涼夜迦を連れて〝大神の寝所〟の前にやって来た。
……なんと畏れを知らないものだろう……
と、大の男の白蘭は恐縮しきりだが、女の身の紫蘭はそうではない。
「大神様……」
紫蘭は畏まる様に言った。
「大神様、涼夜迦は毎日毎日美しい目を腫らす程に、大神様を思い慕って泣いております。どうか頂きに築きましたお屋敷にお連れくださいませ」
しかし、正真正銘の光合成大神様は、聞こえないふりを決め込まれている。
「ならば、この憐れな涼夜迦をご寝所にお連れくださいまし……もし、お聞き届けなき様ならば、この者を此処から叩き入れます」
紫蘭はそう言うと涼夜迦を、ご寝所の入り口まで押しやった。
さすがの大神様もそれには慌てられた。
「其方は白蘭の妻であるな」
お姿をお見せになられて言われた。
「はい。紫蘭にございます」
紫蘭がそう答えるや否や、涼夜迦はそれは嬉しそうに大神様に駆け寄った。
「お逢いしとうございました」
それはそれは美しく、そしてキラキラと潤む瞳を大神様に向けて笑った。
その美しさに大神様は、食い入るようになされたが
「紫蘭。其処から押し入れても、その者は弾き飛ばされるのみである」
と言われた。
「さようにございましたか?」
「うむ……」
「この者が弾き飛ばされるを、見るに忍びのうございましたのならば、どうかこの者をお側にお置きください。毎日毎日泣き暮らしても、やはり忍びのうございます」
大神様は神妙になされているが、ご返答がない。
「ならば、この者をこの辺の神使の誰かか、わたくしの息子に下げ渡しください」
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