第6話

「天にあっては神々しい、天照が殊の外美しいのも知っておる」


「さすがにございます」


は、光り輝く太陽神であるがゆえ、少し高慢ちきである」


「大神様、お言葉をお選びください」


「……ゆえに、今まで我慢しておった」


 ……なんとそんな事を思っておいでだとは……


 白蘭は今までお仕えしてきて、気づかなかった大神様の心内を知って、再び困惑しきりだ。


「ゆえに……。美しいものは高慢ちきでなかろうか?」


「は?」


「あれ程に眩く美しいものが〝ああ〟であるから、美しいものは皆その様に思える。美しいものは遠目で見ておるが一番である」


 ……な……なんと……


 白蘭は目眩がする思いで大神様を眺めた。


「……ならば、とにかく〝美しい〟と思しき者を、お側に置かれて少し……」


 白蘭は思わず声をひっくり返して言った。


「少しずつ慣らしてまいりましょう」


「何をであろう?」


「〝美しき者〟に、でございます」


 白蘭はそう言うと、大急ぎで頂きにそれは立派な屋敷を構えた。

 眷属神であるから、ちょちょいと神山の木々を使って、屋敷を建てるのなど造作もない事だ。

 だが、一番の問題は堅物の大神様を、どう美女の涼夜迦へ歩み寄らせるかだ。

 厳格過ぎて神々様方から疎んじらる程だから、頑固だし融通がきかないから、一度難色を示されると、仮令雷神様が叱りつけようと、頑なにお考えを変える事はない。


 ……いにしえより人々が、貢ぎ者には〝美女〟と誤った思考にあるは、多少なりとも神様であられようと、やはり〝お好み〟があるからで、その美女のなかでも、永年眷属神として生を得ている白蘭ですらも、お目にかかった事の無い程の涼夜迦を、天照様と同等にご覧になる〝目〟は確かなるも、その気性迄同じにご覧になり、怖気づかれるとは、なんとも堅固、強靭なる大神様の名に似つかわしく無い、ヘタレぶりチキンぶりだろうか……。

 ご誕生の砌よりご教育係として侍る白蘭は、余りの草食系……正真正銘の光合成男子ぶりなだけでなく、怖気づかれる大神様に頭を抱えた。


 ……ゆえに独神であられるのか?……



 さて、涼夜迦は白蘭の屋敷に住んで、毎日の様にお慕いする大神様を待ち続けている。

 その憂いに潤む瞳は、屋敷辺りの神使達を虜にし、はては隣神使族その隣の神使族へと、涼夜迦の美貌が知れ渡った。

 その為白蘭の最愛の妻紫蘭は、涼夜迦を屋敷の庭に出す事すら気を使う始末だ。

 当然の事ながら我が子息達にも、尊い大神様の女人ものに手出し無用と、鋭く目を光らせねばならない羽目になった。


「あの様に美しく嘆き悲しまれては、女の私ですら心が痛いのですから、我が家の男という男は心痛で悶絶死しかねません」


 白蘭は白鼻芯族一の美貌の持ち主の、愛妻の小言を毎日の様に聞いている。


「あの者に平常心でおれるは、あなたと大神様くらいなものです」


 紫蘭は嫌味タラタラと言った。


「大神様が平常心でおれぬゆえに、この様に相成っておるのだ」


 白蘭は絞り出す様な声音で言った。


「なんと?」


 鋭く紫蘭が言う。


「大神様はを、殊の外美しいとご認識であられるのだ」


「ならば何故放って置かれる?あれ程の美貌の持ち主でございます、いつどんな痴れ者が現れてもおかしくはありません」


「……なのだ、なのだが……大神様は天照様の美貌と同等とお考えになり……」


「怖気づかれておいでなのですか?」


 紫蘭は呆れるように言った。


「美しい〝もの〟は、全て……」


「天照様の様だと?は最高神で太陽神であらせられるのですよ。高々の人間如きが、あのお方の様なはずはございません」


「……がしかし、大神様は頑ななお方ゆえ……それに、美しいものには〝慣れ〟ておられない」


 白蘭はため息混じりに愚痴った。

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