第5話

〝大神の寝所〟といわれる所は、遙か彼方の天に在るのだろうか?

 それとも遙か彼方の地底に在るのだろうか?

 大神様はお姿を一目見たいと懇願する、涼夜迦の乙女心をお解りになろうともせずに、白蘭達と共に置いて、ずっと会いに来ては下さらない。


「涼夜迦、そう寂しがるのではない。大神様はじきにお出ましになられる」


 白蘭は天を見ては切なげにため息を吐き、月を見ては悲しげに嘆く涼夜迦を見て言った。


「その〝じき〟は、とても長いのですね」


 さめざめと寂しがる涼夜迦の姿は、この神山の白鼻芯属の神使達の目を釘付けにした。

 神のお使いとしてお役目を果たす神使達の中には、神様方よりお許しを頂いて、眷属神と呼ばれるものもいるが、それらのもの達さえも虜にしてしまう美しさがあった。


「大神様、どうか神山で寂しく嘆き悲しんでおります、涼夜迦の為にお姿をお見せください」


 白蘭は神の端くれである、眷属神すらも虜とする涼夜迦の美貌に、眷属の危機を危惧して大神様に進言した。


「白蘭よ。其方は眷属神である、ゆえにの意のままに致してやれ」


 大神様は白蘭の心配に、気をやる事なく言われた。


「大神様、ならば大神様がご来臨なさってください。それがあの者の願いにございます」


「うーん?行くのはよいが、を側に置くは如何なものか?私は此処が一番に落ち着くのだが、此処に連れて来るわけには行かぬ……」


 大神様は困り顔の白蘭に、困り顔をお作りになられて言われた。


「さすがには時期尚早にございます」


「……であろう?と、申してもは私の側に居たがる。如何致せばよい?」


「しかしながら大神様、あの者の美貌は、我ら白鼻芯属のもの達には、目の毒でございます」


「…………」


 恋に無縁の大神様には、男神使達の涼夜迦に対する、淡い恋心がお解りにならない。


「大神様がお連れになられた〝もの〟でございますゆえ、遠巻きに、目の保養とやらで済んでおりますが、今に男共の争いの種となりましょう」


「……ならば、如何致せと申すか?に連れて参り私の側に置くか?」


 白蘭は、神妙に大神様を仰ぎ見た。


「神山の頂きにお屋敷を建立致しますれば、暫し其方でお過ごし頂くは如何かと?」


「其処で私の側に置くのか?……して、あの者には何を致させればよいのだ?其方達神使の様に使うのか?」


 白蘭は真顔で聞いてくる大神様に、どう説明すればいいか困惑する。

 強固で頑丈な物から成り立っている為か、大神様はとても硬い考え方しかなさらない。その為にかの昔、他の神々様に煙たがられて、幽閉されるという憂き目に遭われておいでだ。

 その教訓もあり、ご誕生の砌よりの仲の白蘭に、いろいろご相談頂けるのだが、貢ぎ物の美女が余りにも気の毒なので〝子を儲けては如何かと〟再度進言するのは憚れる。

 遠回しに遠回しに其方へと運ぶ算段なのだが、堅物の上に独神であられるから、此方の方はとんと疎いときているから、眷属の中でも切れ者と通っている白蘭ですら、思うように事が運ぶとは思えない。

 思えないが、神山に連れて来てしまった以上、余計な厄介事を避ける為にも、最上級の美女は最高に尊いお方に、それこそ如何にかして貰わなくては、凡人達の為にならない。


「大神様の身の周りのお世話を、致させましょう」


「白蘭よ。私は何でもできるのだ。世話をしてもらう事はない」


「重々存じております……が、其処をなんとか……」


「あの様に美しいものを、目にしたは誤りであった……」


 大神様は、ため息を吐かれて呟かれた。


「美しいとは認識されておられますか?」


「白蘭、不遜であるぞ」


 大神様は、ムッとしたご様子を作られて言われた。


「私とて、美しいものくらいは解るのだ」

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