ヘリオドール・オブ・アンバースデイ

嘘乃成木

第1話 プロローグ

 そこは、人は疎か動物や植物といった生命を感じれる物がない、作り物のような夢のような世界。


 そんな世界のとある一室に一組の男女が部屋の中央に現れた。 男は小学六年生くらいの少年で、真っ白い髪が特徴的だ。


「はぁ~また負けましたねぇ。イカサマでもしているんでしょうか?」


 少年は肩を落としながらため息交じりに呟いた。


「ぜっちゃんもヘカちゃんも積み込みでもしてるんじゃない?手が出来るの早すぎるし……」


 そう答えるのは少年と一緒に入ってきた女だ。年齢は高校生くらいだろうか、どこかのモデルかのようにすらっとしていて、こちらは輝くようなブロンドヘアーが特徴的だ。

 男女共に、この世の人とは思えない、それこそ人形のように作り物じみた美しい顔をしている。

 二人が現れた部屋は白しかない部屋だった。壁、床、天井、全てが白で埋めつくされており、物などなく、窓やドアなどの外部に通ずる物もない。もはや部屋と言うよりも白い箱と言った方がいいかもしれない。しかし、その部屋に違和感はない。その状態が常で、当たり前でなのだ。入ってくるヒトを落ち着かせるような、自然と″ただいま″と出てしまうような、そんな不思議に溢れた部屋だ。


「3倍満2回も上がるって頭おかしいでしょ。

 それに君も何かしてるよね?結局一位に役満ぶつけて1位になってたし」

「さて、何のことやら」


 少年は悔しさを隠しもせず悪態をついた。


「あぁ〜くそぉ〜。また僕がドベかぁ」

「相変わらず弱いねぇー君、ほらっ!最下位さん、私一応客だよ?お茶出して」

「ここぞとばかりに煽ってからに…!ほらどうぞ!」


 少年はどこからともかくちゃぶ台と煎餅を出した。


「お茶は君が出してよ、そっちのが美味しいし」

「しょーがないなぁ」


 女は美味しいと言われた事が嬉しいのか機嫌が良さそうに鼻歌を歌いながら茶を入れた。

 少年はそれを一口飲む。


「──うん、相変わらず君の入れたお茶は美味しい」

「ふふ、ありがと」


 女は少し頬を染めながらはにかんだ。


「さて、私が麻雀に勝ったわけだけど、ルールは覚えてる?」


 二人揃って無言で煎餅をバリバリと食べていると、女は真剣な顔をしてそう切り出した。

 男は女の言葉を聞いて顔を顰めながら、


「覚えてるよ……忘れたいけど………。


 あれだよね、1位の人が最下位の人に″お願い″できるってやつだよね?」


「そう、それそれ。貴方に″お願い″があるんだけど、聞いてもらえる?」

「拒否権はないでしょ」

「うん♡」


 女は凄く嬉しそうに笑う。男はしかめっ面のままだ。


「で、何をすればいいの?」

「″お願い″を聞いてもらう前にいくつかの質問があるの」

「なに?」

「私の世界の現状知ってる?」

「…………まぁ、何となくは」


 少年は気まずそうに返した。その理由が分かっている女は空気が悪くなるのを感じて敢えて言葉が跳ねるように、笑顔で次の質問に続いた。


「もーひとつ質問!、貴方の世界のオタク文化って知ってる?」

「もちろん!僕もオタクだからね」

「そう、なら話は早いわね、つまるとこ———」

「あー待って、わかった気がする」

「———ほんとに早いわね。言ってみて?」

「最近流行りの異世界転移じゃないの?」

「その通り、よくわかったね」

「君の世界今のままだと魔力がなくなるでしょ?———で、オタク文化に明るいか聞いてきたってことはアニメなんかでよくある方法で解決しようとしているってことだから、異世界転移かなぁと」


(君がオタクなのも知ってるしね)


 少年は女の趣味についてよく聞かされていた。そのため、女が所謂異世界転生物の作品を好んでいる事も知っていた。答えが簡単にわかるのも当然と言える。


「そうそう、ほとんど正解よ。魔力の供給源世界の住人を貰おうと思って」

「でも、それだと数千数万の規模になるし、流石にそれは無理だよ」

「分かってる、だから解決策考えて来たって!これでも自分の世界についてはちゃんと考えてるのよ?」

「へぇー、それでどんな?」

「ふふ、それはねぇー」


 女は悪戯をする少年のような笑みを浮かべながら少年に解決策を語る。少年はそれを聞き、心底楽しそうな顔をした。


















 「あはははははは!!……ウッ! ゲホッゲホッ! あー、面白いなぁ、なるほどねぇ、それなら確かに解決してる!!」

「でしょー?」


 少年は大層機嫌よく楽しそうに笑い、女は自分の悪戯が成功したかのようにニヤニヤしている。


「面白そうだから賛成だけど、僕の仕事はどうする?」

「えっとね、何も今すぐって訳じゃないの、私の世界もまだまだ耐えれるし色々見積もって10年は準備に当てられるよ。その間に後継者育てればいいよ」

「それなら大丈夫そうだね…………というか今サラッと仕事が増えたなぁ」

「それは気の所為」

「だと嬉しいんだけどなぁ!」

「これもあとの楽しみの為だよ!がんばれ??」

「はぁ、しょうがないか………じゃあまぁ気を取り直して話進めようか!」

「そうしよう!」


 そして今度は2人共が悪い笑みを浮かべた。


「さて、まずは私の世界の下地を整えましょうか…」


 女は悪い笑みを浮かべた顔を真剣な表情に戻して目を閉じた。








 □






 ここは、アマデウスと言うとある世界。

 その日、アマデウスに生きる巫女長の脳内に神託が降りた。


 《聞きなさい。愛する我が子よ。》


「キャッ!?」


 《フ、フ、フレイヤ様!?》


 巫女長は突然の神託に驚きの声を上げ、思念でフレイヤに言葉を返した。


 《そうですよ。フレイヤです。》

 《そ、それで本日はどのような───》

 《暫くしたら転移者がそちらの世界に行くわ。もしかしたら世界が動くかもしれない。気を付けなさい》


(まぁ十中八九動くでしょうけどね)


 フレイヤが巫女長の言葉に被せるようにそう言いつつ、世界が動く事を確信していた。それはフレイヤ考案の策の結果なのだから当然とも言えるが。しかし、どう動くのか予想は出来ても確定は出来ない為、こうして神託をするのであった。


「はぁ、まためんどくさい事が起きるのかしらねぇ…………フレイヤ様のおかげで対策は取れる……か。色々やる事がありますね。んぅーーーでも明日からにしましょう……眠たいわ……」


 アマデウスは夜中もいいとこだった。巫女長は布団の中で愚痴を零しながら意識を落としていった。

 その後、巫女長指導のものフレイヤ信仰の団体は来たるべき日に向け動き出した。










 □




 場所は戻って白い部屋………。


 女、フレイヤはひと仕事終えたとばかりに充実した顔をしていた。


「うん。こっちの世界はこれでいいわね。あの巫女は頭もいいし、いい子だもの。何とかなるわよね。 でも…………はぁ、やっぱり人前で、話すのは疲れるわ。

 私は仕事したわよ。あとは貴方次第、そっちが終われば、すぐにでも転移できるわ」


 少年は満足気に頷く。


「分かった。今すぐにでも取り掛かるよ。」


 こうして、2年後、転移させる準備が整うのであった。


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