第76話 歩道橋の女の子

 さっきの話を聞いた時に、僕はふと疑問に思ったことがある。

 幽霊は、死んだ瞬間の姿で、この世に現れるものなのか?

 つまり、焼け死んだ人は幽霊になっても、焼け爛れた姿のままなのかってこと。

 でも、色んな幽霊の目撃談を聞いていると、そうじゃない場合もある。凄惨な事故現場で視えた幽霊が、五体満足で綺麗な身体をしていた、なんて話も聞いたことがあるしね。必ずしも、そういうわけではないみたいだ。

 これは、一体どういうわけなんだろうね。幽霊の個人差なのかな?はは。

 でも、これからする話は、そのどっちにも当てはまらない、なんとも奇妙なケースだよ。


 —歩道橋の女の子—


 とある街に、幽霊がでる歩道橋があった。

 街中の、交通量の多い道路に架かってる、なんてことない歩道橋。強いて言えば、古くて、ちょっと錆びついている。

 そこにね、女の子の幽霊がでるらしいんだよ。

 その女の子は、夕方にしか現れないらしい。夕暮れ時に、歩道橋を渡っていると、反対側の端っこ、階段を上がってすぐの辺りに佇んでいるそうだ。

 目撃談は意外と多かったけど、その女の子はなぜか、子供にしか見えないらしい。霊感があるないは関係なくて、子供だけがその女の子を見ることができると。みんながみんなじゃないみたいだけどね。

 見た人が言うには、その幽霊は小学校の高学年くらいの見た目らしい。おかっぱ頭で、目がクリッとしていて、なにかもの言いたげな表情を浮かべて、じっとこっちを見てくるそうだ。

 歩いて近付いていくと、なぜか気まずそうに階段の方へ逃げていってしまう。追いかけても、階段には誰もいない。煙のように消え失せてしまう。

 どの目撃談も、それが共通事項だった。みんなが口をそろえて、そういったことを言う。

 ところが、それぞれの目撃談で、唯一全く違っている点があった。

 それは女の子の服装。

 その女の子、見る年代によって、服装が変わっているっていうんだよ。

 目撃されだした頃は、古臭い格好をしていたそうだ。まるで、トイレの花子さんみたいなスカートを履いていたと。

 ところが、それからしばらく経つと、女の子はジーンズとトレーナーを着るようになったっていうんだよ。ちょうど、元号が変わった辺りの頃からね。

 それから、またしばらくすると今度は、女の子はスカートとパーカーを着ていたって言う人が増えた。

 まるで、流行に合わせるように、女の子の服装は変わっていっているそうだ。

 中には、雨の日に見たっていう人もいて、その時女の子は、黄色い合羽を着ていたそうだ。寒い季節に見た人は、赤いセーターを着ていたって言う。

 どうやら、天候や季節に合わせることもできるらしい。幽霊にそんな芸当ができるのかって話だけどね。不思議なものだよ。

 ただ、髪型だけは、変わらないらしいんだ。いつどんな時も、必ずおかっぱ頭らしい。

 目撃者も多いから、その街では都市伝説のように語り継がれているらしいよ。その女の子の存在は。子供の頃にしか見えない、不思議な存在って感じでね。

 でも、その女の子が、何の目的で歩道橋にいるのかは、誰にも分からないんだ。

 だってね、その歩道橋で、死亡事故なんて起きたことがないらしいんだよ。

 一切起きていないわけではなくて、接触事故程度は起きているんだけど、死者が出るような事故は今まで一度もないらしいんだ。

 だとしたら、その女の子はどこから来て、どうして歩道橋にずっと留まっているんだろうね。何十年もの間、年代が変わっても。

 なにか、誰かを待っていたりするのかな?

 それとも、ただ単に見てもらいたいだけなのかな?服装を変えて、お洒落した姿を。

 近付いたら、気まずそうに逃げてしまうっていうから、服装を気にするくらいお洒落だけど、恥ずかしがり屋なのかもしれないね。そうだとしたら、随分とほのぼのした幽霊だ。はは。

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