第77話 ラジカセの声

 さっきの話、あんまり怖くなかったね。

 いや、目的が分からないっていうのは怖いものだけどさ。それにしたって、ちょっとほのぼのし過ぎだよね。まるで座敷童みたいな話だ。

 はは、たまにはそういう話があった方がいいって?

 じゃあ、あんまり気が乗らないけど、ほのぼの繋がりで、もうひとつ、似たような話をしようか。


 —ラジカセの声—


 大学の後輩の知り合いから聞いた話。

 その人がまだ五歳くらいの時のこと。家で、歳の近いお姉さんと一緒に遊んでいると、お母さんが気を利かせたのか、ラジカセを持ってきた。

 ラジカセって、君、分かるよね?まさか、知らない?カセットテープは分かるよね?

 ああ、良かった。最近の若い子は知らないかと思ったよ。

 話が反れたね、はは。元に戻そう。

 音楽でも聴いていなさいと、お母さんはラジカセにカセットテープを入れて、再生した。

 そのカセットテープはなんでも、その当時流行っていたアニメの主題歌を集めたものだったそうだ。

 それで、ラジカセから流れてくるアニメソングを聴きながら遊んでいると、何曲か再生された後、静かになった。

 片面の再生が終わったんだろう。でも、その人もお姉さんも、まだ幼くて、ラジカセの操作なんかできなかった。勝手にいじくるのも怖かったし、そのままにしておいた。

 別にBGMが無くったって、遊びは遊び。そのままラジカセを放置して二人で遊んでいると、突然ラジカセから、

 キュルキュルキュル

 と、音がした。

 どうしたんだろうと、お姉さんとラジカセを見つめていると、今度は、

 ———たぁすけてぇ

 と、聴こえてきた。

 それっきり、ラジカセはまた静かになった。

 今の、何?

 お姉さんと顔を見合わせた。

 別に、怖くはなかったそうだ。というのも、その聴こえてきた声、子供の声だったんだそうだ。ちょうど、自分たちと同じくらいの、幼い子供の声。

 声のトーンも、おどろおどろしいものではなかった。まるで、遊びの最中に、おどけて言っているような、そんな言い方だった。

 当然、カセットテープはアニメソング集だ。そんなフレーズが入る曲が収録されているわけがないし、再生は終わっていたんだから、そもそも音がするはずがない。

 なんでだろうと、首を傾げていると、お姉さんがこう言った。

 あんた、ラジカセにイタズラしたでしょ。

 ええ、してないよ。

 弁明したけど、お姉さんは、そう決めつけて聞かなかった。

 あんたがラジカセをいじくって、勝手に録音か何かして、イタズラしたんでしょう。そんな風に言って聞かない。

 結局、言いくるめられて、自分のイタズラということにされてしまった。

 おかーさん、○○が壊したあ。

 違うよう、知らないよう。

 騒いでいると、お母さんが来た。

 何があったの、と、お母さんがラジカセをいじくると、普通に曲が再生された。壊れているわけではなかったんだ。

 馬鹿なこと言ってないで、仲良く遊んでいなさい。

 結局、そう諭されて、また二人で遊びだした。その間、何事もなく、ラジカセからはアニメソングが流れていた。再生が終わっても、変な声が聴こえることはなかった。

 その後も、何度も同じようにラジカセでアニメソングを聴きながら遊ぶことがあったけど、変な声を聴いたのはそれっきり、たったの一度だけだったそうだ。

 この話ね、ずっと記憶の片隅にあったんですけど、あれ?これってもしかして怖い話なのかな?って気が付いたのは、大人になってからなんですよねえ。

 その人は、そう言って笑ったよ。

 大人になるまでは、そういえば不思議な体験をしたものだなあと、気に留めていなかったそうだ。別に、怖いこともなかったし、その後、家で幽霊を見たとか、そういうこともなかったらしい。

 今でも、あれが怖い体験とは思っていないんですよね。幽霊とか、信じてないし。

 その人は、そう話を締めくくった。

 どう?ほのぼのしてて、怖くないでしょ?

 でもね、僕はこう考えてしまうんだ。

 誰にも視えていないだけで、その家には何かがいるんじゃないかってね。

 それに、その声って、本当にラジカセから聴こえていたのかな?

 結局、解釈次第なんだよね、怖いかどうかなんて。本当の事は誰にも分からないし。

 

 

 

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