第17話 手作りの石垣

 最近さ、パワースポットって流行ってるよね。君はそういうの行ったことある?

 僕も一度だけ友達に付き合わされて行ったことがあるんだ。どこか忘れたけど、滝の近くに大きな岩があって、それに触るとご利益がある、みたいなやつだったと思う。

 本当に馬鹿馬鹿しかったよ。雰囲気はあれど、ただの岩なんだから。それを触ったからって別に人生が良くなるわけじゃない。ああいうのを信じる人は理解できないね。

 君はそういうの、信じてる?はは、その顔。幽霊は信じてるくせに、って言いたげだね。僕は目に見えないものを信じることが出来ないだけだよ。幽霊は実際に見たことあるから信じてるんだ。

 話が反れたね。まあ僕が幽霊を見た話はいずれ話すよ。さっさと次の話に行こうか。次の話はね、幽霊が出てこない不思議な話だよ。


 ―手作りの石垣―


 田舎の方で起きた話。この話を語ってくれた人は地方の出身でね。山と田んぼに囲まれたのどかなところで育ったらしい。

 その人が中学生の頃、梅雨時期に大雨が降って軽い土砂崩れが起きた。近所の山の斜面が崩れて、土砂が道に溢れて通れなくなってしまった。

 とはいっても、小規模な災害だったから近所の人たちでどうにかしたらしいよ。田舎の人たちは強かだよね。石をどかして砂を洗い流して、あっという間に小綺麗にしてしまった。

 それだけじゃなくて、また土砂が流れ込んでこないように石垣を作ったらしいよ。山の斜面沿いに石を積んで、コンクリートで固めてしまった。といっても手作りだから、傍から見ればずさんな出来だったらしいけどね。

 石垣ができてからしばらくして、その人が学校からいつもの帰り道を通ってた時、ふと気になって自転車を停めた。

 なぜか見られているような気がしたらしいよ。近くの畑におばあちゃんがいるのかな?そう思って見渡すけど、誰もいない。のどかな田舎の風景が広がっているだけだ。

 気のせいか。そのまま通り過ぎて何事もなく帰り着いたら、なぜか家が慌ただしい。どうしたの?って親に聞いたら、○○さんが大怪我したのよ、って言う。

 どうやら近所のおじさんが畑で大怪我したらしい。農機具に腕を挟んで。命に別状はなかったけど手術することになって、しばらく入院が必要なほどの事態だったって。

 それからなぜか近所で不幸が相次いだらしいよ。通りを歩いてた近所のおばあちゃんが転んで怪我したり、これまた近所のおじさんが軽トラのハンドルを切り損ねて田んぼに落ちたりした。

 怪我をしたのがほとんど近所の人たちだったから、ちょっとした噂になった。なにか罰が当たってるんじゃないかってね。けどさっぱり心当たりなんてないんだ。みんな田舎で普通に暮らしてただけなんだから、罰も何も悪いことのしようがない。

 不思議に思いながら暮らしてたある日、いつものようにまた自転車で帰っていたら、何にもない所で急にバランスを崩して転んでしまった。うわあっ、て咄嗟に受け身をとったから怪我はすりむく程度で済んだけど、自転車はひん曲がってタイヤがカラカラ回ってる。

 ああ、もう、何にもないのになんだよって思って、とりあえず近くの石垣に自転車を立て掛けに近付いたら、なんだか違和感があった。

 石垣がなぜか気になるんだ。なんだ?なんか変な感じがするような・・・、ってて思って、ずーっと石垣を眺めてたら、ひとつの石が目に留まったんだ。他の石はどれも不規則な丸い形の石なのに、ひとつだけ半円形の石が組み込まれてる。丸い石がパカッて割れてるような形。それになぜか目が行ってしまう。

 じーっとみてたら、その半円形の石が何かわかったんだ。わかった瞬間に背筋がゾクッとした。

 地蔵の頭だったんだよ。その石。正確には半分に割れた地蔵の頭だったんだ。ちょうど鼻から上のあたりで真っ二つに割れた地蔵の頭。穏やかな眉と細めた目が刻んであったんだ。

 それに気づいてから、すぐに近所の人たちで頭を取り出して近くのお寺に持って行ったそうだよ。お寺の人は、どうにかなるかはわからないけれど、とりあえず対処してみます、ってことで引き取ってくれたらしい。

 一応それから今に至るまで、その近所の人たちに不幸は起きてないらしいよ。偶然って言ってしまえばそれまでだけど、やっぱりなにか勘ぐってしまうよね。

 ただ、気になることがあるよね。石垣の材料は近所の川で拾って集めたらしいけど、どうして頭の上半分だけがあったんだろうね?そもそもなんで川に地蔵の破片があるのか不思議だけど。残りがあるのかどうかもわからなかったらしいし。

 地蔵だって所詮はただの石みたいなものだろうけど、ただの石じゃなくてやっぱり何かが宿っているモノなのかな?そう考えたら、パワースポットもあながち馬鹿にはできないのかもね、ははは。

 

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