第16話 視線の気配

 さっきの話でようやく生きてる人間の恐怖について語れた気がするよ。怖かった?はは、生霊が出てきたからまた毛色が違う話になっちゃったかな?

 まあいいや。どんな内容だろうと、君が怖がってくれればいいんだ。そうすれば百話も怖い話を集めた甲斐があるってもんさ。

 正確に言えば、こうしないとダメなんだけどね。

 さあ、次の話に行こう。ちょっと前の話にガラケーの話をしたよね。これからする話はスマートフォンの怖い話だよ。


 ―視線の気配―


 サラリーマンをやってる人から聞いた話。その人の勤めてる会社は出張が多くて、地方のビジネスホテルに泊まる機会がしょっちゅうあった。

 ビジネスホテルって怖い話の舞台になりやすいよね。その人も幽霊を見たことは一度もないそうなんだけど、たまに変な体験をしてるらしいよ。

 とある地方都市のビジネスホテルに泊まることになって寝ていたら、真夜中にユニットバスの扉をコンコンってノックされたり、また別のビジネスホテルにチェックインした後、泊まる部屋の扉を開けたらパタパタって足音だけが部屋から出ていったり。

 その人は幽霊の存在を信じていなかったから、気にしないことにして普通に泊まってたらしいけどね。僕だったらすぐに部屋を変えてもらうよ、はは。

 ただ、一度だけその人も部屋を変えてもらったことがあるらしい。これはその時の体験談だよ。

 いつものように出張で地方のビジネスホテルに泊まることになった。初めて来る地方で、泊まるのも初めて。ちょっとだけワクワクしながらチェックインしてみたら、なんてことないビジネスホテルだった。狭い部屋に独特の薄暗さ。小さくて冷えにくい冷蔵庫。ちっちゃなユニットバス。

 まあどこもこんなもんだろう。そう思った後、くたくただったからすぐにベッドに倒れこんだ。外に夕食を食べに行かなきゃならなかったけど、疲れてたから少しくつろいでから行くことにしたそうだよ。

 仰向けに寝っ転がったまま、ぐったりスマートフォンをいじってたら、なんだか違和感を感じた。くつろいでいるのに、妙に落ち着かない。

 部屋を見渡した。誰もいない。当然だ。部屋には自分一人だけ。けど、なんだか視線を感じるような気がする。誰かの視線を。

 野生の勘みたいなもので、ここには何かいるな、って思ったらしいよ。けど、実際に見えないんじゃ怖がりようもない。気のせいだってことにして、構わずにスマートフォンをいじってたら、操作を間違えてカメラのアプリを起動させてしまった。

 ああ、もうなんだよってアプリを消そうとした時、妙なことに気が付いた。画面上に黄色い枠がいくつか表示されたんだ。

 それがスマートフォンカメラの顔認識機能ってことに気が付いた瞬間、血の気が引いた。ベッドに寝っ転がってたから、部屋の真ん中の空中をとらえてるんだけど、黄色い枠が三つ浮かんでる。もちろんそこに人はいないし、人の写真が飾ってあるわけでもない。

 驚いて思わずカメラを横に逸らしたら、逸らした先にも黄色い枠が出てきた。今度は二つ。

 うわああっ、てビビり上がっちゃって、スマートフォンを落としそうになった瞬間、カメラが勝手にパシャって写真を撮ったんだ。もうくつろぐどころじゃない。すぐに部屋を出て、フロントに頼んで部屋を変えてもらった。

 何が怖いって、カメラのアプリでスマイルシャッター機能をオンにしてたらしいんだよ。知ってる?自撮り用の機能なのかわからないけど、写す人の笑顔を認識して、最高の笑顔の時に自動で撮る機能なんだ。

 つまりそれが機能して写真を撮ったってことは、見えない何者か達の笑顔を認識したってことだよね。それも最高の笑顔を。

 ちなみにその時の写真は確認せずに、部屋を変えてもらった後、真っ先に消したらしいよ。

 何が写ってたんだろうねえ。最低でも五人はその部屋にいたってことだよね。姿は見えないけど、何者かが。

 まあ顔認識機能だから、顔だけかもしれないけどね、はは。でも不思議だよね。なんでじっと見てたのに、急に笑ったんだろうね。やっぱり、存在を認識されたことが嬉しかったのかな?

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