第15話 生霊の行方
さっきの話、怖くなかった?なんだか平気な顔してるね。まあ十話以上話してきてるから、慣れちゃってもしょうがないね。
前置きした通り、生きてる人間の恐怖の話っぽくなかったかな?でもね、確証はないけど人間が人間を切り刻んで魚の餌にしてるんだよ。のどかな田舎の片隅で。それだけで十分な恐怖だと思わない?
最近は過激な映画やアニメなんかも増えてきて、世間の人は画面の中で起こる人間の死に何も感じなくなってきてるような気がするよ。まあそれが面白いんだからしょうがないし、そんなのが流行ってるのは平和って証拠だからいいんだろうけどね。
くどくどしつこいかな?ふふ、まあ僕が言いたいのは、現実に生きてる人間が生きてる人間を殺すのは、それだけでもう計り知れないほど恐怖を感じるって事。
うん。まあ、確かにちょっと生きてる人間の恐怖っていうには物足りなかったかな。なら次も似た系統の話をしようか。
―生霊の行方―
とある一家の話。家族構成は父親、母親、おばあちゃんと息子が一人。この一家の父親っていうのが人間のクズってやつで、酒やギャンブルに溺れて家庭を一切顧みなかったんだって。仕事もろくにせずにアル中寸前で、酒が無かったら暴力をふるう。借金をつくって親戚連中にも見放された。
唯一の味方は実の母親でもあるおばあちゃんだったそうだ。もう大分高齢で弱ってたけど、息子を見捨てられずに親戚に頭を下げてまわって、細々と貯めてた貯金や年金を借金の返済にあてたりした。母親と息子は見切りをつけて家を出ていきたかったそうだけど、そんなおばあちゃんを見捨てきれずに仕方がなく残ってた。
そんな風にずるずる暮らしてたある日、とうとうクズの父親が警察に捕まった。詐欺まがいのことをやったらしくて留置場にしばらく拘留されることになったそうだ。
その知らせを聞いた時、とうとうおばあちゃんが倒れた。ショックで限界が来たんだろうね。脳の血管がやられちゃって、病院に運び込まれたけど危篤状態になってしまった。
息子ははらわたが煮えくり返るような思いだったけど、一応警察に行っておばあちゃんが危篤状態だってことを伝えたらしい。面会なんかできなかったけど、警察に言付けてもらったって。
でも父親に言付けた警察の人は苦い顔をして息子にこう言ってきた。あれはもうだめです。伝えたけど、酒をよこせって喚いてばかりで、もうどうしようもない。
人間そこまでクズになれるのか。父親に会わせろ、ぶん殴って思い知らせてやる。息子はそう言って激昂したけど、警察の人になだめられて病院に帰った。おばあちゃんのそばで最期を看取るためにね。
その日の夜、病院から着替えを取りに、一旦家に帰ることになった。もう結構遅い時間で真っ暗な家の中に入ったら、ごそごそ物音が聴こえる。
母親は病院にいるし、まさか泥棒か?確認するために恐る恐るそうっと入っていったら、どうやら物音は台所からする。本当なら警察を呼ぶべきなんだろうけど、父親の件で怒り狂ってたのもあって、玄関に置いてあった傘を武器にして退治してやろうと考えた。どいつもこいつもなめるんじゃねえ、そう思って勢いよく台所の引き戸を開けた。
そこにいたのはなんと父親だったんだ。警察に拘留されているはずの父親が四つん這いになって、台所のシンクの下の引き出しに頭を突っ込んでた。何かを探してるみたいに。
見た瞬間、困惑して硬直したそうだよ。なんで父親がここにいるんだ。ありえない。けど、しばらくしたらめちゃくちゃ腹が立ってきた。反射的に、てめえ、ここで何してやがるんだって怒鳴りつけたらしい。
そしたらさ、引き出しに頭を突っ込んでた父親がゆっくり振り向いてこう言ったんだ。
酒はどこだ?
おかしいのが、その時父親の顔は恐ろしいぐらい無表情だったそうだ。普段からそんな風に酒を探すことはあったらしいけど、決まって荒れ狂って暴れてたらしい。それなのに眉一つ動かさずに、酒はどこだ?って聞いてきたんだって。
それを聴いた瞬間に息子はブチ切れて、父親に向かって傘を振り下ろしたらしい。怒鳴りつけながらね。
ところが、傘は台所の床を叩いた。いつのまにか父親の姿は、影も形もなく消え失せていたんだ。開いてたはずの引き出しの扉も閉まってた。
今のは一体何だったんだ。幻覚でも見たのか?不思議に思ったけど、とにかく病院に戻ることにした。そしたら、もうおばあちゃんはもう亡くなってたらしい。タイミングが悪いことにね。
これって、生霊だよね、多分。父親はあまりにも酒が飲みたくて、留置場から生霊を飛ばして家で酒を探していたんじゃないのかな。実の母親が危篤状態だっていうのに、人間のクズだよ、ほんと。
生霊って、発信源である本人は無自覚で飛ばしてるらしいね。だからってわけじゃないだろうけど、無表情だったのはそういうことだったのかな?それとも酒が飲みたいって欲求如きで飛ばした生霊だったから、弱くて表情に乏しかったのかな?
どちらにせよ、生きてる人間も下手な幽霊の比じゃないくらい恐ろしいってことだね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます