第10話 発端

 やあ、いろいろ語ってきて、ようやく今十話目か。そろそろ最初に言った通り、僕の話をしようか。

 これはね、僕が体験した話なんだ。正真正銘のね。いろいろと長くなるから段階を踏んで話そうか。

 はは、どこから話せばいいかな。うん、やっぱり一番最初の最初。事の発端から話そうかな。


 ―発端―


 事の起こりは友達数人といつもみたいに居酒屋で駄弁ってた時だった。野郎ばっかりの呑みでね、どうしようもない話ばっかりしてたんだけど、友達の一人がこんなことを言い出した。

 なあ、お前、怖い話とか好きだよな?ちょっと変な話があるんだけど、聞いてくれないか?って。

 昔からの付き合いの長い友達でね。こんなこと言うと照れくさいけど、親友っていっても大げさじゃないくらい、気の合う奴だったんだ。そんな仲だから、僕がオカルトマニアっていうのも知ってるし、僕も顔を合わせる度に、なあ、なにか怖い話聞いたりした?って言ってたからね。おお、何々?って期待して聞くことにしたんだ。

 その話の内容は、その友達の知り合いの話だった。なんでも、知り合いの様子がなんだかおかしいらしいんだ。ある日突然、電話がかかってきたと思ったら、その知り合いからだった。平日の真夜中の事。

 なんだよ、こんな時間に。そう思って寝ぼけながら、もしもし?っていうと、電話口で何かまくしたててくる。

 うるせえよ、落ち着け、っていうとようやく聞き取れるくらいの口調になった。それでも興奮してるというか、気が触れてるのかってくらい喚き散らしてて聞きづらかったらしいけど。

 話を聞くと、どうもその知り合いは心の病気になったんじゃないか?って思っちゃうくらい、言ってることが支離滅裂だった。断片的に聞き取れたのは、やばい、とか、俺はもう終わりだ、とか、助けてくれ、とか、そういう物騒な言葉ばっかり。

 おい、何があったんだよ、大丈夫か?って言うけど、大丈夫じゃねえよ!って逆切れされて手に負えない。そのうち喚き声みたいな、叫び声みたいな声が聴こえて、プツッて電話が切れちゃった。

 その日は結局真夜中の事だったからそのまま寝て、それから一切連絡がない。でも一応心配だったから、週末、休みになったら会って様子を見てみようって考えた。

 僕はもう興味津々でそれでそれで?って聞いてたんだけど、それで明日会うんだよ、そいつに、って友達が言うんだ。なあんだ、まだ話の途中じゃん、ってがっかりしたんだけど、そいつは会う約束を取り付けるために、飲み会の前に電話したらしい。そしたらその知り合い、やけに落ち着いてたんだって。

 この間の喚きぶりが嘘みたいに感じられるほど不気味なくらい大人しい。いや、大人しいっていうよりは、なんだか声が据わってるっていうか、覚悟を決めたみたいな、そういう話し方だったらしい。お前、この間は様子がおかしかったけど、大丈夫なのかよ?っていうと、凄く落ち着いた口調で、なあ、明日会えないか?って言ってきた。

 おう、別にいいけど。飯でもいくのか?って言うと、いや、俺の家に来てくれ、って言う。それで明日会ってみるんだけどさ、どう思う?って僕に訊いてきた。

 その時はお酒を呑んでて、ちょっと気分が良かったから、お前それ、死亡フラグじゃねえか、ってゲラゲラ笑いながら返したんだ。そしたら友達もゲラゲラ笑って、ははは、死なねえように祈っててくれよ、って言って笑い話になった。

 その日はそれからまたくだらない話ばっかりして、すっかり呑み明かした後に解散した。それから二週間くらい経ってからかな。そいつから連絡があったんだ。

 そんなことすっかり忘れてたから、何の気なしに電話に出て、もしもし、どうしたよ、って言ったらさ。

 あいつが喚いてた意味がわかったよ。

 ただ一言。そいつがそれだけ言うと、プツッて電話が切れた。

 最初は意味が分からなかった。からかわれてるのか?って思ったけど、そいつはそんなことするような奴じゃないんだ。それになにより、その一言がどうも引っ掛かるというか、不穏な感じでさ。声が震えてるように聴こえたんだ。気が気じゃなくなって電話をかけ直すけど、コールするだけで繋がらない。

 すごく嫌な予感がした。けどそいつの家までは少し遠くて、休みの日じゃないといけそうにもない。どうしようもないから、僕もそいつと同じように週末を待つことにしたんだ。待ってる間はとにかく毎日不安だった。あいつ、何か変なことに首を突っ込んでトラブルに巻き込まれてるんじゃないかって思ってた。その時はね。実際はもっと得体の知れない事に巻き込まれてたんだけど。

 思い返せばその瞬間から、僕はもう得体の知れない怪異、モノに見初められてたのかもしれないね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る