第8話 ドアノブの異音
さっきの話、怖かったかな?はは、僕は聞いた日の夜は携帯をいじれなかったね。何が怖いって、やっぱり理解不能なところだよね。なぜなんてことのないガラケーにそんな画像が入ってるのか。写っていたものは何なのか。なぜ持ち主はコンビニのゴミ箱なんかに捨てたのか。意味が分からないし、さっぱり事態をひも解くヒントはない。
僕はね、怪異なるモノっていうのは、この世の者では到底理解できないモノのことをいうんじゃないかと思うんだ。理解が及ばないからこそ、怪異は恐ろしい。
なんてね。はは、小難しい言葉を並べるなって?
でもさ、その正体がわかっちゃった話っていうのも、やっぱり怖いものだよ。
―ドアノブの異音―
これは若い女の子から聞いた話。そうだね、大学生だったからちょうど君と同じくらいの年代かな。
大学に進学して、新生活を始めるために安アパートを借りた。きれいな1LDKで大学には近いし、街中だから買い物なんかも不便しない。内見してすぐに迷わず借りるのを決めたそうだよ。
引っ越して、一人暮らしで楽しいキャンパスライフを送ってたある日の事。ベッドに入って眠りに落ちそうになってた時に、妙な音が耳についた。
カチャッ、カチャカチャッてなにか金属音がする。不思議に思ったけど睡魔に負けてその日は普通に寝てしまった。
些細なことだったからすっかり忘れてて、また別の日。夜更かししてベッドで読書をしていたら、またカチャカチャ、カチャカチャって音がする。そういえばって思い出して、音の出所を探ってたら、部屋の入り口の開き戸のドアノブが勝手に動いてた。
えっ?って思った。もちろん開き戸の向こうに人なんていない。客人なんかいないし、なによりドアに磨りガラスがはめ込んであるんだけど、その向こうは人影なんかない。
うわあ、心霊現象だ、って思ったけど、ただドアノブが動いてるだけなんだ。よくあるレバーを90度捻って開けるタイプのドアノブね。それが勝手に捻ってドアを開けるわけでもなく、ただひたすらカチャカチャカチャカチャって。動くっていうよりは、揺れてるようだった。
その時に直感みたいなもので、何かがドアを開けようとしてるわけじゃないなって思ったらしいんだ。なぜかはわからないけど、そんな気がしたって。
怖かったけど、心霊現象じゃなくてなにか部屋の不具合で振動してるんじゃないかって思いこんだ。だからなんてことないし怖くないって、自分にそう言い聞かせて、そのまま暮らしてたらしいんだけどさ。
それからちょっとして、部屋に帰ってきた時の事。その日はサークルのイベントか何かで出掛けてて、くたくたになって帰ってきた。部屋着に着替えて身支度を整えたらリビングでうとうとしちゃって、そのまま座椅子にもたれて寝ちゃったんだって。
疲れてたけど、座椅子で寝てたから寝相が良くなかったのか、目が覚めたらもう真夜中だった。ああ、寝落ちしちゃったな、ちゃんとベッドで寝なきゃって思って、寝室のドアの方を見た。
その人曰くね、いつもは寝室からだったけど、その時はリビング側、つまりドアの外側だったから見えたんじゃないかなって。
ドアノブにベルトを引っ掛けて、首吊りしてる人が見えたって。髪が長いガリガリに痩せた女の人。知ってる?ドアノブみたいな低い位置でも、体重を預ければ首吊りは可能なんだ。
なかなか死ねないのか、足をバタバタさせてもがいてる。ベルトに手をかけて、苦しそうに口を大きく開けて声にならない声を出してた。
見た瞬間に気絶したそうだよ。目覚めたら朝だった。急いで部屋を出て、友達の部屋に転がり込んだ。その日のうちに引っ越し業者に連絡したって。いくら立地が良くて住みやすくたって、あんなものを見ちゃったらもうそこで生活しようとは思わなかったって言ってたね。
彼女の直感は正しかったわけだ。開けようとはしてなかった。もがいてたから揺れるようにカチャカチャしてたんだね。ドアの向こう側で。
その姿を見なければ、ずっとその部屋で暮らしてたんだろうね。異音の正体が分かったところで、やっぱり怖いものは怖いよねえ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます