第7話 ガラケーの画面から
ちょっと手ぬるい怖い話が続いたから、ここいらでひとつマジな話をしようかな。ははは、そんな気の遣い方はするなって感じだね。まあ、怖いか怖くないかは君が決めることだし、そんなに気を張らないでよ。
―ガラケーの画面から―
これはね、一昔前の話。体験した人はその頃高校生だった。小遣いを貯めたくて、コンビニ店員のアルバイトを始めたんだ。
ある日の事、コンビニの外に置いてあるゴミ箱がいっぱいになってたから、引きずり出して袋の口を結んでたら、燃えるごみの中からガラケーを見つけた。
君はガラケーって知ってるよね?はは、それぐらいわかるって?最近の若い子はもうみんなスマートフォンばっかりだよね。
当時はガラケー全盛期。みんな高校生になったらガラケーデビュー、みたいな時代だったんだよ。
なんでゴミ箱にガラケーが?不思議に思って店長に報告すると、ドジなやつがうっかり捨てたんだろって言うだけ。捨てとけよって言われたけど、何ゴミなのかわからないし、なにより当時ガラケーの大切さをわかってる現役高校生だったから、一応落とし物としてロッカールームに置いておいた。
休憩中に手に取って見てみると、ストラップは最近のアニメのキャラクターの物で持ち主は若者っぽい。折り畳み式のボディは傷だらけで画面にはひびが入ってる。だから捨てたのかな?って思って、電源をつけようとしてみるけど、充電が切れてるのか画面は暗いまま。
まあいいかってそのまましばらく置いてたけど、いつまでたっても持ち主は現れない。待てど暮らせど来ないから、ずうっとロッカールームに置いてあるまま。
見つけてからひと月くらい経って、ふと思いついた。そうだ、電源をつけて連絡先を見ればいいじゃないか。そこから個人が割り出せる。勝手に人の携帯の中身を見るのはちょっとためらわれたけど、それで持ち主が見つかれば別にいいじゃないか、そう考えた。
本当ならちゃんと店長に言うべきなんだろうけど、捨てとけって言われたのをとっておいた手前、報告しづらかったから自分の家に持って帰ったんだって。
偶然にも自分のガラケーと同じ充電ケーブルの規格だったから、自分の部屋でさっそく充電してみた。そしたら、ご飯よーって呼ばれて、お風呂に入ったりテレビを見てるうちに忘れちゃったんだって。
夜になってそろそろ寝ようって時に自分の携帯を充電しようとして、やっと思い出した。そうだ、もう十分充電できただろうから、電源をつけてみよう。
電源をつけてみたら、ちゃんと立ち上がった。待ち受け画面はストラップと同じアニメのキャラクターがウィンクしながら笑ってる。
本当なら電話帳から連絡先の手掛かりを探ろうとするべきなんだろうけど、ちょっと魔が差して、アルバムの画像を見たくなったらしいんだ。一瞬ためらったけど、好奇心を抑えられなくてカメラの画像フォルダを漁って見た。
そしたら、なんか変なんだ。カメラで撮った画像が最新順に何枚か表示されてたんだけど、その全部が真っ黒なんだ。なにこれ、保存に失敗したのかなって思って、一枚一枚見ていくと、どうやらそうじゃないらしい。
よくみると、なにか真っ暗な場所で写真を撮ってるみたいなんだ。ところどころ写真の端に、よくみると毛布みたいな布切れとか、草木みたいなものがちらちら写ってる。
なにこれ、どこを写してるんだ?って思いながら次々画像を見ていくと、一枚だけ鮮明に何が写ってるかわかる画像が現れた。
夜にフラッシュをたいて撮ったのかぼやけてたけど、森とか雑木林の中っぽい所に、泥だらけの、毛布というよりはシーツみたいなもので何か大きなものをくるんで、地面に無造作に置いてある画像だったんだ。
その画像を見た瞬間、見たらいけないものを見てしまったって急に思って直感で反射的に目を背けちゃった。そしたらさ、画面から急にペタペタって音がした。
えっ?って思って視線を戻したら、ガラケーの画面から泥だらけの指が二本、飛び出てきてたんだって。
うわあ!って驚いて、ガラケーをぶん投げた。部屋の隅に吹き飛んで、転がって画面が下を向いた。怖くて近寄れなかったけど、ガラケーはずっと沈黙したまま。しばらくして、ずっとこのままじゃいられないから恐る恐る近付いて、すぐにバタン!ってガラケーを閉じて、部屋にあったセロハンテープでぐるぐる巻きにしたって。
それからもう夜も遅い時間だったけど出かけて、近くの大きな川にぶん投げて捨てたって。気が気じゃないから全力疾走したって言ってたよ、はは。
ちなみにその話を聞き終わったとき、その人ガラケー持ってたんだよ。恐る恐るそれってまさか、捨てたのに帰ってきたんですか?って聞いたら、笑いながらこれは自分の携帯ですって言うんだよ。
この話を聞いたのは結構最近のことなんだ。ガラケー派ですか、珍しいですねって言ったらさ。
やあ、ガラケーだったから指二本だけで済んだけど、スマートフォンにしたら手のひらが出てこれるんじゃないかって思ったら怖くなっちゃって、って言ってたよ。
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