第5話 廃墟の仏壇

 さっきの話、幽霊は出てこなかったね。はは、まあ存在しないモノを怖がるっていうのは、それはもう幽霊が存在するってことに等しいんじゃないのかな。

 なんだか哲学的な感じだね。まあそれは置いといて、次の話も幽霊は出てこないから安心しなよ。ははは、そんなに疑いの目で見ないでよ。


 ―廃墟の仏壇—


 これはね、僕の知り合いの廃墟マニアから聞いた話。廃墟が好きなやつでね、どこそこに廃墟があるって話を聞きつけては、毎週のように出かけていって探索してるらしいんだ。

 まあちょっと気持ちはわかるよね。廃墟ってなんだかワクワクしない?誰かが生活した痕跡が時が止まったみたいに残ってるのって、なんだか惹かれるものがあるよ。

 僕は入っていって探索なんて嫌だけどね。いくら廃墟っていったって怖いし、不法侵入してるようなものだからね。法律を犯してまでオカルト欲を満たそうとは思わないよ。はは、説得力がないって?まあ聴いててよ。

 ある日のこと、いつもみたいに廃墟の情報をききつけて、辺鄙な山の中の廃村に行ったんだ。限界集落にとうとう限界が来ちゃった、みたいなところ。

 廃村だから誰もいない。聴こえるのは鳥と虫の鳴き声だけ。草で荒れ放題の道に車を止めていざ廃村の中へと入っていって、一軒一軒しらみつぶしに探索していく。

 だけど落胆したって言ってたよ。ほとんどの家が古いのは古いけど、朽ち果てるほどになってはいなかった。多分だけど、廃村としてはまだ若かったんだろうね。どの家の中にも入れはすれど、荒れ放題ってわけはなくて、きれいに何も残ってなかったそうだよ。

 なーんだ、ハズレだなって思って帰ろうとしたとき、小高い所に一軒離れて建ってる家を見つけたんだ。どうせ他の家と変わりはないんだろうけど、ここまで来たんだし見て帰るかって思い立った。

 でもいざ家の目の前につくと、あーあって思った。電力メーターがついてる。てことは、家の中で電気をまだ使ってるって事だから、この家は誰かの所有物ってことだ。

 廃墟マニアって、電力メーターがついてるかついてないかって事を探索チェックの基準にするんだってね。だからそいつはそこだけは目ざとくチェックしてた。

 なんだよって思って帰ろうとしたときに、ん?って違和感を感じたんだ。電力メーターがついているのはこの家だけだ。完全な廃村なのに、まさかこの家にはまだ誰か住んでるのか?不思議に思って電力メーターに近寄って見てみたら、見たことないくらいメーターが目まぐるしく回転してる。

 そんな、まさか。やばいと思って耳を澄ましたけど、家の中からは一切生活音らしきもの音は聴こえてこない。ていうか家の佇まいからして、まず人が住んでるような状況じゃない。

 廃墟マニアとしての探求心がそうさせたのか、怖いもの見たさからか、そいつ、決心して入っていったそうだよ。

 ぼろぼろでむきだし同然の玄関をくぐると、昔の家の作りだからなのか、土間みたいな場所になってる。そこから家の中に土足で上がると、和室が広がってる。畳が腐ってるのかぶわぶわで床板ごと踏み抜きそうになりながら奥に進んでいくと、仏壇が目についた。

 うわって思った。仏壇がそのままで残ってる廃墟なんて珍しくはないけど、おんぼろ同然の家の中でその仏壇だけ異様にピカピカだったんだって。

 近付いて見てみると、埃すらついてない。観音開きの扉はきっちり開いていて、線香とか蝋燭なんかもちゃんとそろってたそうだよ。鳥肌がぞわぞわ立って、やばいもう出ようって思った時、あるものが目に付いた。

 それを見た瞬間に家を飛び出して車まで猛ダッシュして、急いで廃村を出たらしいよ。もう山道をものすごいスピードで下って行ったって。一体何を見たのって聞いたらさ。そいつこういうんだよ。

 仏壇ってコンセントが付いてるじゃないですか。明かりとかつけられるように。その仏壇、コンセントが差さってたんですよって。

 よくよく考えてみれば、なんてことないよね。そんなの別に珍しいことじゃない。だけどそいつ言うんだよ。

 明らかにあの廃墟は電気を使ってる痕跡なんてなかった。コンセントが差さってたのはあの仏壇だけなのに、なんであんなに電力メーターがぐるぐるぐるぐる見たこともない位まわってるんですかって。 

 それを考えた瞬間、なぜか急に怖くなって逃げ出したんだって。電力メーターって電気を使えば使うほど回転するんだよね、確か。

 仏壇なんてせいぜい照明くらいしか使わないのに、なんでそんなに電力メーターが回ってたんだろうねえ。

 

 

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