第10話 真実

 額の傷を手当てするために、隆弘の部屋に足を運んだ。


 あたしはベッドの枕元で埃をかぶっていた救急箱を手に、いつもカナタといっしょに動画を観ていたソファーに座った。


 その間、床やあたしの服に額から流れた血が点々と付着したけど、気にしない。


 救急箱をテーブルに置いた。テーブルの上は昨日あたしとカナタが散らかしたままの状態だった。


 飲み干したペットボトルが横倒しになっていて、食べ残したカルシウムスティックがグラスの中に残っていた。


 救急箱を開けると消毒液の匂いが鼻についた。あたしは黄色く変色したガーゼに消毒液を含ませるとかなりテキトーに額の傷を消毒して、固いチューブからひねり出した薬を塗った。


 包帯も自分では上手く巻けなくて、緩い。


 でも、もうどうでもよかった。


 あたしはもうカナタとここに座っていっしょに過ごすことはないかもしれない。


 額の傷の痛みが強くなった。


 ひどいよ。


 あたしはテーブルを両手で激しく叩いた。


 テーブルの上から空のペットボトルが転げ落ちた。


 暗かったノートパソコンの画面が瞬時に復活した。


 あたしは何気なく、マウスをクリックして動画プレイヤーを立ち上げた。


 また例の海の動画を観ようかと思ったけど、やっぱり観たくない気もする。


 あたしは少し迷って動画の再生履歴から一番古いものクリックした。


 手ぶれがひどい画像が再生され始めた。


 たぶんハンディタイプの録画装置で素人が録ったものだろう。


 場所はこの施設内のどこかで、たくさんロッカーが立ち並んでいる部屋だった。


 三人の見知らぬ若い男たちの背中が映っていた。


 男たちは部屋の中をだるそうに歩いている。


 背中しか映っていないから表情はわからない。


 でも笑い声が聞える。


 へらへらした感じの下品な笑い声だった。


 突然画面が切リ変って、次はロッカーの扉がアップで映し出された。


 男たちの笑い声はあいかわらずであたしは気分が悪くなった。


 微かに違う声がした。知ってる声だった。


 その声は助けて、出して、と言っていた。


 男たちはその声を聞くたびに大笑いをした。


 一人の男がロッカーを蹴って、何だまだ生きてたのかよ、カナタ、と笑った。


 あたしは心臓が止まるような感覚を覚えた。


 男の中の一人がロッカーの扉を開いた。


 中から手足を拘束されたカナタが飛び出して、床に投げ出された。


 カナタは衰弱しきっていて、はあはあと激しく苦しそうに呼吸をしていた。


 脱水症状を起こしていると一目でわかった。


 男たちはそんなカナタを見ると、例のへらへらとした笑い声をあげて、カナタを口汚くののしった。


 カナタは手足を縛られたまま、床の上で悲しそうな顔をして男たちを見上げていた。


 男たちの一人がカナタの腹を蹴り飛ばした。


 カナタは体をくの字に曲げて小さくうめいて、吐いた。


 違う男がこいつ汚ねーと言ってカナタの顔を何度も踏みつけた。


 カナタは、ごめんなさいごめんなさいと何度も泣きながら謝った。


 画面に映っていない男の声が、この画像を録画している隆弘の声が「そろそろやろうぜ」と言った。


男たちは今まで以上に下劣な顔になって、笑いながら、カナタの衣服を破りとって、カナタを陵辱した。



 あたしはノートパソコンをテーブルから叩き落した。



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