③
妹。
わたしの妹。
よくできた、わたしなんかにはもったいない、妹。
染めていないのに少し明るい、やわらかな髪。
きれいというよりかわいい方向に整った顔だち。
穏やかで花のようにふわっと笑う笑顔。
いつもほのかに香る、石けんの香り。
人望も厚く、誰からも好かれる、
まだ何者にだってなれる、中学2年生の、妹。
わたしにはない、色んなものを持っている、わたしの、妹。
幼い頃は、嫉妬した。
なぜ妹はすべてを持っていて、
わたしはなにも持っていないのか。
そう、嫉妬した。
親を恨んだ。
妹を恨んだ。
友人を恨んだ。
環境を恨んだ。
世界を恨んだ。
恨んで恨んで恨んで恨んだ。
でも、そんな嫉妬も、いまはもうない。
諦めたのだ。身の程を知ったのだ。
妹は、あれでいて努力家だ。
花のような笑顔と、陶器のような肌を持ちながら、
表には見せないけれど存外負けず嫌いで、努力家だ。
だからわたしは悟った。
あの子はなんでも持ってるんじゃない。
なんでも掴み取ろうとしているんだ。
そう、悟った。
それは、わたしにはできないことだった。
自分は努力した。
そう思っていたけれど、ぜんぜん足りなかった。
生きることへの情熱が、あまりに違いすぎた。
だからわたしは諦めた。
嫉妬もしなくなった。
ただただ「すごいなぁ」と、
他人事のように思うだけになった。
ずっと胸の中にあった感情も、
そうなってからはどこかに消えていた。
そしてそんな想いがあったことすら忘れて、
ただ、毎日を生きていた。
昨日までは。
妹の部屋から、妹のものではない喘ぎ声を聞くまでは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます