第5節
「鉱害を許すなー!」
「農業用水を守れー!」
週末の街中に、シュプレヒコールが響く。
「参ったな……」
コダマ達の船はデモ隊が占拠する道に差し掛かっていた。とても前に進めそうにない。
「クラクションでも鳴らそうか」
「バカ言うな。火に油を注ぐつもりか」
「でも、このままじゃ、今日の配達が間に合わなくなるよ」
わぁっと、デモ隊の先頭付近で声が上がった。そしてそのまま、暴動が始まった。
「うわっ! 何アレ!」
「鉱山労働協会の輩とぶつかり合ったんだ!」
「鉱山……? なんで知ってるの?」
コダマは拳銃型スタンガンを携え船を下りて、乱れる群衆の中へと入っていった。
先頭に近づけば近づくほど、人々が殺気立っていくのがわかる。
怒声、悲鳴が聞こえる。
「おやじ……!」
コダマは自分の父親の、ヨシオの行方を捜した。
探さなければならない理由があった。
「やめろ! やめろやめろ!」
その声にコダマは反応した。ヨシオの声だった。
ヨシオは血だるまの仲間をかばっていた。そのヨシオも血だらけになっている。農地側も鉱山側も、手に手に武器を持ち、殴り合いをしている。
「くそっ! ヨシオ!」
コダマは駆けていった。
「あ、あれ。アンタ昨日の……」
「良いから! はやくここから逃げろ!」
「コイツを置いていけない!」
「ああもう!」
コダマは血だるまの男の足の方をもった。
その時だった。ヨシオの後ろから、鈍器を振りかざした男が躍り出てきた。
「おやじ! 危ない!」
コダマは思わず叫んだ。そしてスタンガンを発射した。スタンガンの針はヨシオを飛び越え、後ろから殴りかかろうとしていた男に命中した。五十万ボルトの電圧がかかり、男は行動不能に陥った。
コダマとヨシオ、そして血だるまの男は路地裏へと逃げ込んだ。メインストリートでは未だに暴徒と化した市民達が乱闘を繰り広げている。
「助けてくれてありがとう。だけどスタンガンとは感心しないな!」
ヨシオはコダマの腰にぶら下がっているスタンガンを指さしていった。
「言ってる場合か! アンタ今死にかけたんだぞ!」
「コダマ!」
スラッシュの声がした。コダマは路地裏の向こう側に、船を見つけた。
「アンタ! 早くここから逃げだそう! もうメチャクチャだ!」
「あ、ああ」
*
コダマとスラッシュは血だるまの男とヨシオを病院に送り届け、そのまま郵政基地へと戻っていった。その船内で、コダマは頭を抱えていた。
「……どうしたの? 殴られでもした?」
「違う……」
「もう。こんな野蛮な時代、早く出て行こうよ。このまま郵政基地へと戻るからね!」
「ああ……」
郵政基地へと戻ると、船が完全に修理されており、コダマとスラッシュの帰りを待っていた。
「すっかり綺麗だね!」
その様子を見ていた局長が、横から口をはさんだ。
「六百年後のテクノロジーは、この時代の技術レベルで再現させてもらった。その分、貨物スペースが圧迫されてしまったがね」
「帰りはどうせ、一ヶ月分の食料で一杯になるだろうから構わないですよ」
「ああ。すでに貨物室に積み込んでおいた。無事に帰還できることを願っているよ」
「ありがとうございます」
コダマとスラッシュは船に乗り込んだ。船はエンジンを快調に動かし、ゆっくりと床下の発進チューブへと吸い込まれていく。窓の外で職員達が総出で送り出してくれているのが見える。スラッシュはそれに触手を振って応えていた。
発進チューブから飛び出した船は光速域に飛び込み、職員達の視界から消え去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます