第3節

「それで、君らは六百年後の世界から来たというわけかね」


「ええ」


 局長室に呼び出されたコダマとスラッシュは、質問に淡々と答えた。


「……時空法の関係で詳しくは聞けない。ワームホールとはね。災難だったね」


「全くです」


「どうやって帰るつもりだね」


「船で元の時間まで飛びます」


「なるほど。だから落ち着いているわけか」


 局長はギィと、椅子にもたれかかった。


「だがねぇ。あの船を直すのにはそれなりの時間がかかる。その間どうするつもりだね」


「ここで仕事をします」


   *


 代替の光速船に貨物を積み込みながら、スラッシュは悪態をついていた。


「こんな時ぐらい、休暇申請すりゃいいじゃん。なんて働くのさ」


「休んでどうするってんだ。帰るところもなけりゃ知ってる奴もいない。いたとしても、俺たちのことはしらんだろう。休むだけ無駄だ」


「やり直したいこととかないの?」


「……それこそ航時法に引っかかる。過去に干渉することは禁じられている」


「役所ってお堅いなぁ……」


「それに干渉したとして、未来にそれが影響するとは限らない。この時空が平行宇宙なのか、それとも単一の連続体なのか、俺たちには分からないからな」


「……難しい話はおなかが膨らまないからやめて」


   *


 船は光速域に達した。光速船は枯れた技術だ。五百七十四年前の船でも、普通に光速に達せる。


「この時代でも操縦は変わらないね。マニュアルかと思ったよ」


 操縦桿を握るスラッシュは、まるで昔からこの船を操縦していたかのように席に収まっている。


「さーて、まず最初の荷物は?」


「……」


「どうしたの?」


「……いや、なんでもない」


 船が光速域を脱する。眼前に青い星が現れた。


「周囲に盗賊の気配無し。安全だよ」


「当然だろ。ここは農業開拓連合と鉱山労働協会が事実上支配する星だぞ。パトロールどころか自衛組織まで出張ってる。無頼の輩は近づけやしないさ」


「よく知ってるね?」


「……俺の故郷だからな」

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