第4節

 地球の基地に戻るなり、コダマは事故報告書の作成に取りかかり、提出した。しかし怒りに任せて書いたためか、差し戻しを食らった。


「書式に合わせて下さい」


 そう事務員に言われ、併せて過去の三件の事故報告書を読むよう勧められた。

 コダマは控え室にやってくると、スラッシュの目の前に過去の事故報告書を放り出した。


「何これ?」


「俺の書いた報告書がお粗末だから、過去の報告書を読んで提出し直せとよ」


 コダマは憮然として椅子に落ち着いた。


「そんなに怒ることないでしょ。僕らは助かったし、郵便物だって配達し直せばいいし」


「配達し直したところで時間は戻らないんだ。スラッシュ。あの趣味バカはとんでもないことをしたのさ」


「やったのは彼のおじいさんでしょ」


「同類だ」


 コダマは持ってきた報告書を読む気もしないようだった。怒りで放心しているようにも見える。スラッシュはそんなコダマを放っておいて、報告書を一つ手に取った。


「読めもしないのに何する気だ」


「読めはしないけど、こういうのって写真が生々しいから好き。ゴシップ紙みたいでさ」


「ふん」


「……あれ?」


「どうした」


「この写真、ブロック7だね」


「それがどうした」


「僕らの船も、ブロック7が故障したよね」


「そうだな」


 コダマはスラッシュからタブレット端末をひったくり、報告書にざっと目を通した。約四十年前の事故だった。事故の原因はブロック7の故障による、エンジン爆発。


「……まさかこんな時から小細工していたんじゃないだろうな」


 コダマは眉をひそめた。


「これもブロック7の写真が出てる」


 スラッシュがタブレットを渡してくる。これは八十年前だった。パトリック・アルドリッツ氏は生まれていない時代の事故だ。


「三つ目の事故もブロック7が関係しているみたいだよ」


 百年前の事故だった。


「光速船が、同じ回路の故障で三回の事故に遭遇してる。僕らで四回目。しかも、あの封書を届けた光速船ばかり。これって偶然なのかな」


「……知るかよ。構造的欠陥とか色々考えられるだろ」


「……僕、気味が悪くなってきたよ」


「心配するな。お前の考えているようなことはない。だって俺たちが届けただろ! ジンクスがあったら、もう厄払いは済んでるってところだ」


   *


 数週間後、ユージン・アルドリッツは不慮の事故で亡くなった。彼の膨大な切手コレクションはオークションにかけられた。その中の一つ、コダマ達が運んだ『クラッシュカバー』は、地球の収集家によって買い取られた。


 しかし、呪いの手紙を再び運ぼうとする業者は現れなかった。

                                                                           了

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