クラッシュ・クラッシュ・カバー
第1節
クラッシュカバーとは、狭義では航空事故に遭遇して、郵送を妨げられた郵便物のことをいう。
——恒星間ネットワーク百科全書より。
*
コダマとスラッシュは食堂でA定食をかき込みおわると、ぼんやりとニュースを眺めていた。
『……今回のオークションで、パトリック・アルドリッツ氏によって一千万の価値が付けられたこの古代の郵便物は、クラッシュカバーと趣味家の間で珍重されるもので……』
一千万という値段を聞いて、コダマは鼻で笑った。
「物好きが居るもんだな。あんな焼け焦げた封書一枚に一千万かよ」
「一千万あったら何が食べられるかなぁ……」
スラッシュの言葉に、周囲にいた配達員達が笑った。その時、アオシマから声をかけられた。
「なあコダマ。あれだろ? お前達が今日運ぶ荷物って」
「あ? そうなのか?」
「もっぱらの噂だぜ。呪いの手紙だってな」
コダマは噴き出した。
「呪いって……。お前マジで言ってるのか?」
「だって、実際に事故に遭ってる奴らがいるんだ。あの手紙を運んでな」
「なになに? 何の話?」
スラッシュが首を突っ込んできた。
「そいつらはどうした? 紙の端で指先でも切ったのか?」
コダマは本気にしていない様子で、笑いながら尋ねた。しかしアオシマの面持ちは本気だった。
「三人だ。三人とも死んだ。配達中の事故でな。それから、手にした者に不幸を呼び寄せる呪いの手紙って言われているんだ」
「光速船の事故が怖くて光速船乗りやってられるかよ。いくぞスラッシュ」
「……」
「気をつけろよコダマ!」
アオシマは、今生の別れのような表情でコダマとスラッシュを見送った。
*
貨物は全て船に積載済みだった。その中に、大げさに梱包されているわりには軽い荷が一つあった。備考欄には『美術品』と書かれていた。
「これか。呪いの手紙さんは。ほう、一千万の保険がかかってる。流石の貫禄だな」
「……」
「どうしたスラッシュ。さっきから黙って。顔色が悪いぞ」
「僕、今日はパスして良い?」
「ああ?」
「僕、この荷物運びたくない」
「何言ってやがる。アオシマの言ってたこと本気にしているのか?」
「コダマは気持ち悪くないの?」
「たかが骨董品の手紙だ」
「……」
スラッシュは不安そうな面持ちで荷物を見つめると、渋々そうにコクピットへと向かいだした。
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