第3節

「娘さんだったんじゃないの? その子」


 スラッシュは触手で操縦桿を握り、船の姿勢を微調整している。


「計算が合わないだろぉ」


 コダマはニヤッとしてみせた。


「コダマはもうタネが分かってるんだろ? だったらいつまでもナゾナゾ話に付き合ってられないなぁ……」


「だけど、皆が『お嬢』に手紙を書く理由は分からないままだろ?」


「……まぁね。どうして?」


「まぁ待てよ」


   *


 俺は自分の年齢感覚に自信が持てなかったんだ、その時は。だから年齢に関してはスルーしていた。見た目の若さもな。それに仕事が他にもあったし。


 だが、三回目からはどうにも、スルーしにくくなった。なんてったって三十年、五十年たっても同じ顔、背格好なんだぞ? いくらこの俺が薄情で人に興味を持たないって言っても、年をとらない人間に会ったらそりゃビックリもするさ。


 年はとらなかったが、手紙は減っていった。百枚が九十枚になり、八十になり……。最終的には一枚になった。そりゃそうだ。文通相手だって生き物だからな。次々と死んでいくさ。


 最後の手紙は訃報の連絡だった。それを渡すのは俺も気がひけたね。なんてったって、一応百年の付き合いだしな。


 彼女は泣いたよ。俺もどうしたらいいか分からなくてうろたえた。それから、家の中に呼ばれたんだ。郵便配達員としては規定違反だったが、やむにやまれず、招きに乗ったさ。


 俺は尋ねた。なんで年をとらないのかと。そうしたら、彼女は五百年前に打ち切りになった、不老不死計画の被検体だったというんだ。計画がばれて人権団体から猛バッシングを受けた研究所は閉鎖。彼女は寄る辺もなく、宇宙に放逐されたってワケだ。食い物も着る物も人権団体が寄越してくれるが、友達は寄越してくれなかった。そこで、普通の寿命の人間に手紙を出して文通していたというわけだ。


 俺は提案した。また新しい文通相手を探せば良いと。そうしたら、彼女はこう言ったよ。「もう失う事に耐えられない」って。


 彼女は俺を丁重にもてなしてくれたが、それっきりだった。時々ダイレクトメール便を届けに行ったが、伏せって出てこなくなってしまった。

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