第4節
スラッシュは歯止めが利かなかった。パーティ会場に到着するなり、一直線にオードブルの机に突っ走っていって貪りだしたのだ。ワインも勧められるがままに呷り、もはや止めることは不可能に近かった。コダマは後悔した。
「コダマさん」
スラッシュの乱痴気ぶりを見守るコダマの背後から、ユキは声をかけてきた。
「ああ。どうも、こんばんは。——盛況のようだな」
「ええ。スラッシュさんも元気そうで」
コダマは顔から火が出そうだった。あのナマコめ。
「いつかの夏を思いだしますね。バーベキューにお呼びした日」
「あの時は迷惑かけたな。タダだと思ってアイツは……」
「良いんですよ。今回のパーティも私が幹事さんに、多めに料理を用意するよう言っておきましたから」
コダマは頭を掻いた。
それからしばし、二人は話に花を咲かせた。隣の星系の不思議な景色や地球の最近の出来事、冒険譚、スラッシュのことなど……。酔いも回って、二人は笑いを分かち合った。
「ねえコダマさん」
唐突に、ユキの声色が真面目なトーンになった。
「なんだ?」
ワインを数杯飲んでも、コダマの肌は赤くならなかった。乱れた様子も見せない。
「本当に、一人でいても寂しくないんですか?」
「ああ」
「……いろんな星を巡って、好きな人が出来たりとかは無かったんですか?」
「無かったな。こんなに一所で長く勤めたのは久しぶりだ」
「——そうですか——」
花火の打ち上げが始まった。二人の顔が、闇に一瞬映えた。
その花火を見ながら、ユキはぽつりと言った。
「もし私が、あなたを好きだと言ったら、どうしますか?」
「……やめておきな。と言うね」
「何故ですか? あなたが光速船乗りだからですか?」
「違う」
「じゃあなんで……」
「俺はアンドロイドだからさ」
「え……」
ユキの顔色が曇った。
「光速船勤務は人間には厳しい。おまえさんが言うとおり、親戚もなにもかも居なくなってしまうからな。そんな孤独に人間が耐えられるか? アンドロイドならそれも問題にはならないのさ」
花火が散る音だけが、二人の間を駆け抜けていく感じがした。
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