第2節

 バローナへは予定通り、一時間程度で到着した。軌道上では植民船が貨物積み卸しの真っ最中だった。


「よし、交代だ。お前の出番だ」


「よーし。スラッシュ様のドラテク見てなよ!」


 光速船は滑るように、宛名の住所へと走った。

 貨物の積み卸しセンターを中心として、すでに街がつくられている。街の外れではすでに造成工事が始まっており、このバローナ開発への行政の意気込みが感じられた。


 船は《ランプ》から市街地に入った。《ランプ》とは、飛行機能のついた車両、もしくは車両機能のついた航空機専用の入り口である。市街地上を航空機が飛ぶことは許可されていないため、ランプから市街地に入り、以降は車両として往来しなければならない。


 コダマの船は六つのタイヤを出して着地し、そのままスムーズに車道へと合流した。


「イーストブロック四〇二号……」


 渋滞気味の道を避け、船は一路宛名を目指す。スラッシュのドライビングテクニックは冴えていた。


「ここだ」


 船を路肩に停めさせ、コダマはペットが入った郵便物を小脇に抱えて外に出ようとした。


「僕も行っていい?」


「お前は留守番だ」


 インターフォンのボタンを押すと、家主が出た。


「郵便です」


 すると、ドタドタと、誰かが駆けてくる音が家中から聞こえてきた。十歳ぐらいの女の子が勢いよく扉を開き、飛び出してきた。


「ティリー!」


 女の子はコダマから荷物をひったくると、その場で包装を破きだした。


「こらユキ! ああもう、すみません郵便屋さん……」


 家の奥から遅れて、母親と思しき女性が現れた。


 破かれた包装の中から、二十センチ立方のケージが現れた。コダマの読み通り、小さなハムスターが入っていた。これがティリーか。


「サインをお願いします」


 タブレット端末を差し出す。


「あ、はい。……ほらユキ、郵便屋さんにありがとうは?」


「ありがとう! 郵便屋さん!」


「どういたしまして」


 久しぶりにお礼を言われた気がする、と、コダマは考えた。


「どうだった?」


 車内で留守番をしていたスラッシュはプロテインバーを貪っていた。


「どうって?」


「喜んでいたとかそういうこと」


「まぁ普通だな」


「普通って! もう少し感情をくみ取る練習したほうが良いよ? 同じ知性体として心配になるよ」


「無駄口叩いてないで次行くぞ。ホラ動かせ」


「はいはい」

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