第二部
第4話 景山プロとロバート氏の出会い
それは、2002年の事だった。ロバート氏は大阪の本町のホテルで毎週開催されていた大阪例会に参加した。yahooのバックギャモンで忍者氏に誘われての事だった。ロバート氏は、いきなり、5ポイントマッチのレーティング戦を戦っていた。それはそうだろう、高校時代から大学生と賭けてギャモンをやり、バックギャモンの公式ボードも持っていれば、バックギャモンブックも持っていたのだから。ただし、ロバート氏はサラリーマンだった。本名では遊べない。ネットで公開されて会社に名前がばれると拙いことになる。そこで、ロバート氏は、黒崎喜実夫と名乗った。同年代の支部長に「君、歳いくつや」と言われてカチンときていたからだ。まあ、ロバート氏はプライドが高かった。
いきなり初日から景山プロとの対戦があった。レーティング戦である。もちろん、景山プロが勝った。その時、景山プロはロバート氏に言った。
「将棋をしていませんか」
ロバート氏は言った。
「していません」
ロバート氏は嘘つきなのだった。
プロとは何か。海外を転戦してバックギャモンで生計を営む人。当時の日本には、景山プロと望月プロの二人しかいないとロバート氏は聞かされた。
その後、名古屋から大阪に遊びに来ていた長谷川氏から、日本バックギャモン協会(JBL)の会員は全員プロなのだという解釈も耳にした。いずれにしてもよくお金の動くゲームだなと、ロバート氏は思った。
当時の大阪例会の雰囲気は和気藹々と同時に強い上昇志向があった。何らかのタイトル戦で日本一を経験している人が多かった。
盤聖、名人の大阪代表になるには、上位6人のリーグ戦で上位2名にはいらないといけないのだ。このリーグ組と非リーグ組の間の壁。そんなものもあった。
景山プロとロバート氏はよく行動を共にした。某高級レストランでの朝までシュエット。(シュエットとは複数人でやるバックギャモンのこと)飲みに行っても、話題はギャモンのポジション。やがて、ドメルン氏、バッカモン氏、キャメロン氏、小倉氏、キシヤン氏などが加わった勉強会も頻繁に開催された。
京都ギャモンや町屋ギャモンも開催されるようになった。神戸では兵庫のバーに招待されたこともあった。また、有名なJoe-Guy杯なども開催されていた。
ロバート氏がなぜロバートと名乗ったのか。それは、JBLへの登録を本名ではできないために、ロバート・クロサキとしたのだ。高橋こでぶ氏が許されるなら、ロバート・クロサキも許されるべきだとロバート氏は思った。しかし、認知度が低いという、理由で却下された。ロバート・クロサキが「金持ち父さん、貧乏父さん」などの筆者ロバート・キヨサキのもじりであることに気が付いたのは、バッカモン氏だけだった。しかし、この事件があってから、ロバート氏のあだ名は、「黒」から「ロバート」に変わった。
景山プロについても書かなくてはいけない。大学を卒業し、大手企業に就職した後、90年代前半にプロに転向して、会社を辞めた。盤聖3連覇など、国内で輝かしい成績を残すとともに、海外でも活躍。バックギャモンへの情熱は沸点はもちろん成層圏を超えている感じだ。ロジカルで正義感が強い景山プロと弱気で虚栄心の強いロバート氏では性格がまるで違う。ただ、バックギャモンが好き。そこだけは共通していたのだが、ロバート氏は会社では病気治療中ということで、体力的に勝負師は無理だと自分で決めていた。
景山プロはフットワークが良い。ロバート氏の生家(神戸市)にも、会社やめてから引っ越したオフィス兼自宅にも足を運んだ。もちろん、プロだからお金を貰ってのことだ。やること。それはバックギャモンである。
バックギャモンとは、どういうゲームですか。人生が変わるゲームです。そして、こんな事を言う人もいた。
「バックギャモンは好きなゲームだが、バックギャモンをやっている人たちが嫌いだ」
辛辣である。お金持ちのゲーム、エスカイヤークラスのゲーム、それがバックギャモンなのか。エスタブリッシュメントが関わっているから、賭け事でも警察が手を出さないのか。ロバート氏は妄想を膨らませていた。
景山プロは、何冊も本を書いていた。有名な、ハッピーギャモンシリーズである。ロバート氏は、これをすべて買って、持っていた。もちろん読んでいた。
出会いか。yahooゲームでの忍者氏の誘いがなければ、ロバート氏は100%大阪例会に行っていないだろう。忍者氏は、ある出来事を境に、大阪例会に顔を出さなくなった。
景山プロとロバート氏の共通点。それは、普通ではないということ。異端。エッジ。
人生観はどうなのか。サラリーマンという存在をどう見ていたのか。これは、書かぬが華だろう。二人はまだ40歳。ロバート氏は50歳で会社を辞めた。遅すぎたのではないか。もっとも周囲は、辞めるなの大合唱だったようだが。
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