滝桜




なんと美しいかな 小山の連なりには 白山桜が幾重にも咲き重なる。


ご開帳のご本尊の、金剛蔵王大権現の三体に見下ろされている 三人親子は、金峯山寺きんぷせんじにいた。


ここは、義経と静が逃れた奈良の吉野山。

しかし後の世に、天皇が逃れた地でもある。

京都に新たな天皇(光明)を立てようとした足利尊氏の目論みにより、南北朝時代となり、後醍醐天皇(大覚寺統)は、三種の神器を没収され尊氏に幽閉されたが、隠し持つ本物の三種の神器とともに吉野へ逃れ、南朝、吉野朝廷となる。三種の神器を巡る戦いが、全国的に争われ、六十年続いた。


千鶴が、「きれいきれい」「絶景じゃ絶景じゃ」と、うかれて煩いほどにしている。

中千本から見上げる、花矢倉から、流れるような桜の滝に、心奪われていた。


さとこは、静を想う。季節こそいつであったろうか、この吉野まで逃れつ、修験道である女人禁制の地に入ることが許されなかったのか?

そうこうしているうちに見つかってしまったのだ。


桜よ桜 姿隠して


二人よ無事に逃れておくれ


白き桜よ 一目千本 太閤さんも、能舞い愛でよう










「しづや しづ……」



山から

桜が囁いた


~~~






《完》


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菫微笑(すみれえみ) さあや @murasakirinka

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