舞夢
千鶴の父の好大郎は、歴史的な遺産を見に行くのが好きだった。
転勤族の両親のもとで、新天地を転々とした中での寂しさを紛らしたものが、歴史探索。宝物と呼ばれる物を公開していると、父にせがんで、赴くのが趣味だった。
日本に帰国してからも、日本の歴史に触れる楽しみに開眼して、お小遣いを貯めては、観光した。
さとこの舞に触れてからというもの、舞についての歴史的興味が広がってきたことは言うまでもない。
さとこと家族は、関西の格安の旅行チケットを手に入れて、懐かしいはずの、中学の修学旅行を省みていた。 「
そして、今日は、奈良の法隆寺に訪れた。
中三になった千鶴は、去年訪問した法隆寺の、知恵のお守りを、今日、お寺に返すつもりだ。
特別に、
八角形の東院の夢殿に、大切にしまわれてきた秘宝や、大宝蔵院の観音様。夢違観音。(菩薩・白鳳時代)
妖艶さを感じさせるそのお顔をよく拝見したら、さとこにまた、舞のアドリブが天から降りてきた。
舞いたいな・・・
観音像の指先は、大変にしなやかだ。そして流しているような目は、眠たげなのか、それとも、何かを言いたげなのか、何を夢みているのか。 眠りの夢ではなく、夢違のその意味は、希望の夢であるような気がしている。
夢を見る観音様ならば、さとこには、容易に解釈できる。
観音の夢はなんであろう、平和な人間たちの世を叶えることではなかろうか。夢のような世を。
突然、好大郎が言った。「
法隆寺は不思議な謎の寺。聖徳太子は、不思議な力を持った聖人。」
「そうねぇ、なんだかそんな雰囲気を、すごく感じる。」と、さとこ。
「夢殿には、明治時代まで、内緒だった秘仏があってね。開けてみたら、たちまち地震が起きるからダメよなんて言われていたほどの、秘仏でね。僕は、それが聖徳太子に見えたんだけどね。
「へぇ、でもそうなると、観音様はほとんどが、聖徳太子、みたいなことにならない?」
「うん、まあ、時代的なものとしては、そうとも言えるよ。釈迦如来もね。まったく定かではないが、法隆寺には、不思議な宝がたくさんあるとか。聖徳太子は、超能力者だったとか、いろいろに説もあるしね。」
「私は、兎に角、頭がよくて聖徳太子には、知恵のご利益があるとか、聞いた気がする。」
「ところで、万葉集にもひとつあるように、
「へぇ!雅楽とは、どう関係があるのかしらね!」
「法隆寺にも、何か、証拠のお宝があるらしいね。」
「どんな万葉詩だったっけ?」
「まあ、それがね~力士がでてくるんだけど、舞の歌には違いないが、ちょっとひどいストーリーだから敢えてやめとくわ。」
「え~~。まあ歴史って残酷だからね~。私は、そんな怖い舞はいやだわさ。」
「だわさって。ははは。ごもっとも。さとこの真骨頂は、美との共演だろ?日本には、白鷺や鶴の舞とかの神事があるから
、今度訪れよう。まあ、力士も昔は神事だったことの繋がりが見えただけでも面白かったね。」
「万葉の時代は、広々とした大陸ロマンがあるし、神秘的なとこもあるし、羽衣天女も舞ってみたいね。うふふ。」
「さとこは、きれいな部分を見つめる天才だな。」
「あなたのお陰です~。ふふ。」
と言って、千鶴を見たら、三色団子を頬張っていた。
白鷺が、大きく平たい天空を横切って行った。
~舞夢 おわり~
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